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2025.05.20

形と機能の美学:讃岐民芸館で楽しむ徳利の歴史と文化

日本の酒文化に欠かせない「徳利」をテーマにした企画展が高松市の栗林公園内にある讃岐民芸館で開催されています。江戸時代から昭和初期にかけて量り売りだった時代に使われていた「通い徳利(かよいどっくり)」や、船の上で使われる「船徳利(ふなどっくり)」など、約70点の多彩な徳利が展示されています。徳利は時代や用途によって形が異なり、使いやすさと美しさを兼ね備えた日本の工芸品。お酒を注ぐ道具としての機能性はもちろん、飲酒を彩る芸術性も感じられる展示となっています。

目次
  • 通い徳利の社会的役割
  • 形状の工夫に見る知恵
  • 酒器としての徳利の発展
  • 讃岐地方と酒文化の関わり
  • 2025年度開催の酒文化関連イベント

形と機能の美学:讃岐民芸館で楽しむ徳利の歴史と文化【歴史ニュース】
徳利とおちょこ

徳利の種類と用途の多様性

通い徳利の社会的役割

江戸時代から昭和初期にかけて、酒は現在のようにボトルやパッケージに入れて販売されることは一般的ではありませんでした。多くの酒屋では量り売りが主流で、その際に使われていたのが「通い徳利」または「貸し徳利」と呼ばれる容器です。名前の通り、この徳利は顧客と酒屋の間を「通う」道具でした。

通い徳利とは、もともと酒屋と顧客の間を往復して使われていた徳利のことで、空になった容器を持参して酒を詰めてもらい、再び持ち帰るというスタイルでした。こうした再利用可能な容器によって、資源を無駄にしない合理的な販売形態が成立していたのです。しかし戦後になると、ガラス瓶の普及にともなって徳利の役割は徐々に変化し、それに合わせて量り売りの文化も姿を消していきました。

形状の工夫に見る知恵

徳利の形状には、使用する環境や目的に合わせた様々な工夫が凝らされています。展示の中で特に興味深いのが「船徳利」です。底が平たく広がった独特の形状をしており、その名の通り船乗りや漁師たちが使用していました。海の上で揺れても倒れにくいよう設計されており、実用性を重視した先人の知恵が感じられます。

また、「燗徳利(かんとっくり)」は温めたお酒を注ぐための徳利で、一般的に熱を保ちやすく持ちやすい形状になっていることが多いようです。「御神酒徳利(おみきとっくり)」は神棚に供えるためのもので、神聖な用途に用いられることから装飾的な要素が見られることもあります。これらの徳利は実用品でありながら、時代や地域の美意識を映し出す工芸品としての一面も持ち合わせています。

徳利にまつわる日本の酒文化

酒器としての徳利の発展

日本における徳利の祖先となる器は古くから存在していたと考えられていますが、現在私たちが想像する形の徳利が広く用いられるようになったのは江戸時代以降といわれています。素材も時代とともに変化し、当初は主に陶器製でしたが、次第に磁器や錫、ガラスなど様々な素材も使われるようになりました。

徳利はお酒を入れるだけでなく、日本の酒文化における作法や美意識とも関わりがあると考えられています。例えば、徳利の口の形状は、お酒の流れ方に影響し、注ぎ方の印象を左右することがあります。また、徳利の大きさや形は、どのような場面で、どのようなペースでお酒を飲むかという文化的背景も反映していることがあります。季節や行事に合わせた装飾が施された徳利も存在し、酒席を彩る文化的要素として発展してきたといえるでしょう。

讃岐地方と酒文化の関わり

讃岐(現在の香川県)は酒造りの伝統がある地域のひとつです。現存する蔵元の中でも、寛政元年(1789年)創業の西野金陵や寛政2年(1790年)創業の綾菊酒造など、江戸時代から続く老舗が複数存在し、長い歴史を物語っています。

西野金陵の「金陵」は、江戸時代から「讃岐のこんぴら酒」と呼ばれ、金刀比羅宮の御神酒として用いられてきた歴史を持ちます。また、明治18年(1885年)創業の丸尾本店には、幕末の志士・高杉晋作桂小五郎が蔵の隠し部屋で潜伏していたという伝説も残されています。

現在、香川県内には6つの酒蔵が存在し、それぞれが讃岐の地の利を活かした酒造りを行っています。綾菊酒造では香川県独自の酒造好適米「オオセト」を基本とした酒造りを継承し、川鶴酒造では香川大学農学部によって開発された「さぬきよいまい」を使用した日本酒も醸造するなど、地域の米を活用した取り組みが見られます。

これらの革新的な取り組みと長い伝統が融合し、現代の讃岐の酒文化を形成しているのです。讃岐民芸館に所蔵されている徳利コレクションは、こうした豊かな讃岐の酒文化の歴史を物語る貴重な資料といえるでしょう。

徳利には実用性とシンプルな美しさが共存しており、民芸品に通じる「用の美」を体現しています。今回の展示は、そうした讃岐の酒文化に花を添えてきた徳利の魅力を多角的に伝えるものとなっています。

ここがポイント!

讃岐の酒文化は歴史と革新が融合しています。江戸時代の「讃岐のこんぴら酒」として金刀比羅宮の御神酒に用いられた金陵や、幕末の志士が潜伏したという伝説を持つ酒蔵など、歴史に彩られた蔵元が現在も県独自の酒米や県産オリーブ酵母を使用した革新的な酒造りを続けています。

展示名 酒文化に花を添えた徳利たち
主催 讃岐民芸館
会期 令和7年3月14日(金曜日)~5月25日(日曜日)
入館料 観覧無料 ※ただし栗林公園入園料が必要

関連イベント情報

徳利展が開催される2025年は、全国各地で日本酒や酒文化に関連するイベントが予定されています。讃岐民芸館の徳利展と合わせて訪れれば、日本の酒文化をより多角的に楽しむことができるでしょう。

2025年度開催の酒文化関連イベント

施設名 展示名 会期 概要
國酒フェア2025 國酒フェア2025 2025年6月14日~15日 日本酒フェアと本格焼酎・泡盛フェアが合体し、大阪ATCホールで初開催される日本最大級の國酒イベント。
白鹿記念酒造博物館 令和7年春季展 笹部さくらコレクション 桜歌爛漫 2025年3月19日~5月26日 明治から昭和にかけて活躍した「桜男」笹部新太郎のコレクションを展示し、日本酒と桜の文化的つながりを紹介。
高輪ゲートウェイシティ 混祭(こんさい)2025 2025年4月11日~13日 80以上の日本酒蔵や焼酎蔵が集結する大規模イベント。東京の新たな街で開催される酒文化の祭典。
日本橋エリア 第9回日本橋エリア日本酒利き歩き2025 2025年4月12日 全国約50蔵の日本酒が味わえる街歩きイベント。日本橋エリアを巡りながら多彩な日本酒を楽しめる。
中埜酒造 酒の文化館 伝統的酒造り展示 通年 伝統的な酒造りの道具や職人の技を紹介。実際に使われていた蔵の姿をそのまま残した臨場感ある展示空間。