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2025.06.27

山梨県立考古博物館「釣手土器の世界」5000年前の土器が語る縄文人の心

縄文時代中期(約5,000~4,000年前)、中部高地で生まれた釣手土器(つりてどき)は、神秘的な装飾と独特な形状で現代の私たちを魅了し続けています。火を灯すことで装飾が影として浮かび上がったと考えられており、祭祀に使われた特別な存在とみなされています。山梨県立考古博物館の夏季企画展では、この魅力的な縄文の遺産を通じて、人々の豊かな精神世界を探ることができます。

目次
  • 縄文土器の誕生と発展
  • 特別な祭りに灯された神聖な火
  • 動物と人面が語る縄文の世界観
  • 中部高地の繁栄を支えた黒曜石文化
  • 開催情報
  • 縄文関連展示

山梨県立考古博物館「釣手土器の世界」5000年前の土器が語る縄文人の心のイメージ画像作成:junk-word.com【歴史ニュース】
縄文人の精神世界を探るイメージ画像作成:junk-word.com

縄文の灯りが織りなす幻想の世界

縄文土器の誕生と発展

縄文土器は約1万6000年前に日本列島で誕生し、旧石器時代と縄文時代を分ける重要な指標となっています。青森県外ヶ浜町の大平山元遺跡からは、世界で最も古いもののひとつとされる無文土器片が発見されており、旧石器時代から縄文時代への移り変わる貴重な時期を示しています。この無文土器は、表面に縄文が施されていない初期の土器で、土器作りの最初期の姿を物語っています。

土器の登場により、それまで生で食べるか焼くしかなかった食材を煮炊きできるようになり、縄文人の食生活は大きく改善されたと考えられています。福井県鳥浜貝塚からは約1万年以上前の調理土器が発見されており、サケなどの魚を調理していた可能性が指摘されています。

縄文土器は低温で焼かれた黒褐色のもろくて厚手の土器が特徴で、表面に縄文(縄の文様)が施されていることからその名が付けられました。時代が進むにつれて、煮炊き用の実用的な土器だけでなく、祭祀用の特別な土器も製作されるようになり、釣手土器もその代表例のひとつです。縄文土器の多様性は時代差や地域差を識別する基準として重要で、草創期・早期・前期・中期・後期・晩期の6期に分ける土器型式上の区分が確立されています。

特別な祭りに灯された神聖な火

釣手土器の特徴は、火を灯す機能を持った「灯火の土器」としての役割です。茅野市ホームページによると、釣手土器は限られた遺跡から数える程度しか出土しておらず、日常的に使用されていた道具ではなく、特別な祭りの日にだけ使われていたと考えられています。

釣手土器の多くには、様々な形の穴が開けられており、底も一般的な深鉢形土器と比べて浅めに作られています。この特殊な構造により、内部に火を灯すと、釣手土器の装飾が美しい影として浮かび上がったと考えられています。夜の闇に浮かぶ幻想的な光と影の演出は、縄文人たちの心を深く揺さぶったことでしょう。

動物と人面が語る縄文の世界観

釣手土器の装飾には、ヘビやイノシシなどの動物文様や人面装飾が施されており、縄文人の創造性と世界観を物語っています。2018年に長野県立歴史館で行われた展示では、諏訪市穴場遺跡出土の動物装飾付釣手土器が紹介されていました。時期の古い札沢遺跡例では三角頭だったヘビが、新しい時期の穴場例では鼻先の平らな装飾に変化し、まるでドラゴンのような姿だと述べています。

伊那市創造館で展示されている顔面付釣手形土器では、人面の装飾がほどこされ、両側に5本の指のようなものが表現されており、大きな手が土器を抱えているようにも見えます。このような形状は、釣手土器が持つ生命力や神聖性を視覚的に表現したものと考えられています。

中部高地の繁栄を支えた黒曜石文化

釣手土器が生まれた縄文時代中期の中部高地は、黒曜石という貴重な資源に恵まれた地域でした。霧ケ峰高原の星糞峠(ほしくそとおげ)には縄文人が黒曜石を採掘した鉱山跡があり、日本遺産の解説では「国内唯一の黒曜石鉱山」と紹介されています。

同じ中部高地には星ヶ塔(ほしがとう)など複数の採掘遺跡が確認されているため、学術的には「数少ない黒曜石鉱山の一つ」とみなされています。

黒曜石は縄文時代から日本列島各地に流通し、八ヶ岳山麓には大きな集落が点在していました。これらの集落は、良質な信州産の黒曜石を求めて遠くの地域から訪れる縄文人との出会いの場となり、東西文化の交流ネットワークが結ばれていたことが推測できます。このような文化的繁栄の中で、釣手土器という高度な芸術作品が生み出されたのです。

星糞峠って変わった名前ですよね。私は最初のころ、星屑と勘違いしていました。屑ではなく糞だと知ってびっくりした記憶があります。どうして糞なんて付けたのか不思議だったのですが、糞にはチリや捨てられたものという意味があるそうです。キラキラ光る黒曜石のかけらを、地元の人たちが空から降ってきた星のかけらと信じたことからこの地名になったと伝えられています。

ここがポイント!

火山活動が生んだ天然ガラスの黒曜石は、外科用メスさながらの鋭い切れ味を備えており、海外の実験でもその刃が組織への損傷を最小限に抑えることが確認されています。一方、縄文人はこの鋭利さを石器や矢じりづくりに生かしていたと考えられています。中部高地の黒曜石は特に良質で、全国各地の遺跡から発見されることから、広域的な交流の証になっています。

開催情報

展示名 釣手土器の世界
主催 山梨県立考古博物館
会期 令和7年7月12日(土曜日)~8月31日(日曜日)
開館時間 午前9時~午後5時(入館の受付は午後4時30分まで)
観覧料 無料(常設展は一般・大学生220円、未就学児・小中高校生・65歳以上無料)
休館日 毎週月曜日(7月21日、8月11日は開館)、7月22日(火曜日)

関連イベント情報

縄文土器や縄文時代をテーマとした魅力的な展示が開催されています。DNA研究の最新成果から縄文人のルーツを探る特別展や、世界文化遺産に登録された縄文遺跡群の貴重な資料を一堂に紹介する展覧会まで、多彩な切り口で縄文の世界を体験できる機会が豊富に揃っています。

2025年開催中・開催予定の縄文関連展示

施設名 展示名 会期 概要
馬高縄文館 縄文土器入門~縄文土器の特色をさぐる 2025年4月12日~8月24日 1万2千年におよぶ縄文時代の石器の変遷を、長岡市立科学博物館のコレクションから長岡や周辺地域の主要な出土品で紹介
東北歴史博物館 特別展「世界遺産 縄文 2025年7月12日~9月15日 重要文化財の遮光器土偶をはじめとする縄文遺跡群の貴重な資料を通じて、1万年続いた縄文社会を紹介する巡回展
名古屋市科学館 特別展「古代DNA-日本人のきた道- 2025年7月19日~9月23日 最新のゲノム解析で明らかになった縄文人や弥生人のルーツを科学的に解明。旧石器時代から古墳時代までの人類史を探る

縄文時代・釣手土器のまとめ

  • 縄文土器は約1万6000年前に日本列島で誕生
  • 大平山元遺跡から世界最古級の無文土器片が発見
  • 土器の登場で煮炊きが可能になり食生活が改善
  • 釣手土器は限られた遺跡からのみ出土する希少な土器
  • 特別な祭りの日にだけ使われた神聖な道具
  • 火を灯すと装飾が美しい影として浮かび上がる
  • 底が浅く作られ幻想的な光と影を演出
  • ヘビやイノシシなど動物文様や人面装飾が施される
  • 時代とともに装飾が三角頭からドラゴン様に進化
  • 中部高地は黒曜石という貴重な資源に恵まれた地域
  • 星糞峠には縄文人が採掘した黒曜石鉱山跡が残る
  • 黒曜石は縄文時代から日本列島各地に流通
  • 東西文化の交流ネットワークが形成されていた