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2025.05.18

【茨城県天心記念五浦美術館】で開催中!浮世絵のプライベートコレクション250点

北茨城市出身のコレクターが集めた浮世絵約250点が一堂に会する「浮世絵展―隅田川でたどる江戸の暮らしと文化―」が茨城県天心記念五浦美術館(いばらきけんてんしんきねんいづらびじゅつかん)で開催されています。歌川広重(うたがわひろしげ)が描いた隅田川の名所から、「奇想の絵師」歌川国芳(うたがわくによし)が捉えた人々の暮らし、歌川国貞(うたがわくにさだ)、月岡芳年(つきおかよしとし)、小林清親(こばやしきよちか)まで、江戸後期から明治にかけての浮世絵の精華を楽しめます。桜の名所として知られた向島の花見や、当時最先端だったファッションなど、約150〜170年前の江戸の人々の暮らしぶりが生き生きと伝わってくる展覧会です。

目次
  • 隅田川が育んだ江戸の花見文化
  • 浮世絵に見る江戸の娯楽とファッション
  • 浮世絵の技術革新と色彩の世界
  • 2025年度開催の浮世絵展

墨田川と江戸の文化ー浮世絵のプライベートコレクション250点を出品 イメージ図 作成:junk-word.com
墨田川と江戸の文化イメージ図 作成:junk-word.com

隅田川が育んだ江戸の息吹を浮世絵で体感

隅田川が育んだ江戸の花見文化

この展示で注目したいのは、江戸の人々にとって特別な意味を持っていた隅田川流域の花見の風景です。当時の人々の娯楽と文化を象徴する景観を知ることで、浮世絵をより深く味わえるでしょう。

隅田川、特に向島は江戸時代を代表する桜の名所でした。この展示に含まれる歌川広重の「東都名所隅田川 堤の花 同向島名所一覧」には満開の桜が、また小林清親の「向島桜」には桜を楽しむ人々の姿がそれぞれ描かれています。江戸時代、花見は桜を愛でるだけでなく、町人層を中心に武士や上層町人も訪れる賑わいの社交行事とされていました。

小林清親の「向島桜」が描かれた明治13年(1880年)頃は、江戸の文化が近代化の波に飲み込まれつつあった時代です。それでも向島の桜は変わらず人々を魅了し続け、清親はその伝統と変化の狭間にある風景を繊細な色彩で表現しました。現代の隅田川沿いの花見と比較すると、風景は変わっても人々が季節の移ろいを共に祝う心は変わらないことに気づかされます。

浮世絵に見る江戸の娯楽とファッション

展示される浮世絵からは、江戸の人々がいかに娯楽やファッションに熱中していたかが伝わってきます。現代人と変わらない「トレンドへの感度」を知ることで、浮世絵の人物たちをより身近に感じられるでしょう。

歌川国芳の「江戸自慢程好仕入 ごばん嶋」や「当盛江戸鹿子 永代橋ノ景」からは、最新の装いを身にまとった江戸の若者たちの姿が見て取れます。「当盛(最も盛んなという意味)」「程好仕入(最新流行を採り入れたという意味)」といった言葉が示すように、これらは当時の最先端のファッションや流行を紹介する作品でした。着物の柄や髪型、持ち物に至るまで、細部にわたって当時の流行が表現されており、まさに江戸時代のファッション誌のような役割を果たしていたのです。

また、歌川国貞の「相撲人形花の取組 不知火諾右衛門」は、当時人気を博した相撲取りを題材にしています。相撲は江戸の庶民に愛された娯楽であり、人気力士は現代のスポーツ選手やタレントのような存在でした。国貞は華やかな色彩と大胆な構図で力士の迫力を表現し、見る者を魅了します。

歌川国芳の「荒獅子男之助」のような作品からは、当時の人々が物語や演劇に親しんでいた様子も窺えます。江戸の人々は歌舞伎や人形浄瑠璃を通じて物語世界に浸り、その登場人物に憧れ、時に自分を重ね合わせていました。浮世絵はそうした物語を視覚化し、広く伝える役割も担っていたのです。

ここがポイント!

浮世絵は単なる芸術作品ではなく、江戸時代のメディアとしての役割も果たしていました。最新の流行や話題の人物、人気の場所を紹介する雑誌やSNSのような機能を持ち、情報が限られていた時代に人々の好奇心を満たし、共通の話題を提供していたのです。

浮世絵の技術革新と色彩の世界

この展示で注目したいもう一つの視点は、浮世絵の印刷技術と色彩表現の発展です。江戸時代後期から明治にかけての浮世絵の技術的発展を知ることで、作品の魅力をより深く理解できるでしょう。

展示される作品群には、浮世絵の技術革新の歴史が反映されています。初期の浮世絵は墨一色の「墨摺り(すみずり)」でしたが、やがて手彩色の「丹絵(たんえ)」を経て、複数の木版を使い分ける「錦絵(にしきえ)」へと発展しました。歌川広重や歌川国芳の作品に見られる鮮やかな色彩は、こうした技術の成熟によるものです。

特に注目したいのは、展示作品の中でも最も新しい時代に活躍した小林清親の作品です。明治期に活躍した清親は、西洋の遠近法や光の表現技法を取り入れた「光線画」と呼ばれる新しい浮世絵のスタイルを確立しました。「向島桜」にも見られる繊細な光と影の表現は、伝統的な浮世絵技法に西洋画の要素を融合させた革新的なものでした。

また、浮世絵の色彩には様々な工夫が凝らされています。例えば、当時の浮世絵師たちは限られた色数の中で豊かな表現を実現するために、「ぼかし」や「空摺り」といった技法を駆使しました。広重の空や水面の表現に見られるグラデーションは、このような技法によるものです。さらに、江戸後期には西洋から輸入された「ベロ藍」と呼ばれる鮮やかな青色顔料が登場し、広重の「東都名所隅田川」シリーズなどで印象的に使用されています。

浮世絵は大量生産される「版画」でありながら、一枚一枚が手作業で刷られており、職人たちの繊細な技と感性が込められています。版木を彫る彫師、色を摺る摺師、そして絵師が連携して制作される浮世絵は、まさに江戸の職人文化の結晶とも言えるでしょう。明治時代に入ると印刷技術の機械化が進み、伝統的な浮世絵は次第に姿を消していきますが、その美しさと技術は現代の私たちをも魅了し続けています。

ここがポイント!

浮世絵は江戸時代の芸術でありながら、常に新しい技術や表現を取り入れて進化し続けていました。伝統を守りながらも革新を恐れない姿勢は、日本文化の特質の一つであり、現代のデザインや工芸にも通じるものがあります。展示作品を鑑賞する際は、色彩や線の表現にも注目してみてください。

展示名 浮世絵展―隅田川でたどる江戸の暮らしと文化―
主催 茨城県天心記念五浦美術館
会期 2025年4月26日(土曜日)~6月8日(日曜日)
※前期:4月26日(土)~5月18日(日)
※後期:5月20日(火)~6月8日(日)
※会期中、一部展示替えあり
開館時間 午前9時30分~午後5時(入場は午後4時30分まで)
入館料 一般710円(590円)、満70歳以上350円(290円)、高校生470円(360円)、小中生240円(180円)
※( )内は20名以上の団体料金
※身体障害者手帳等をご持参の方および付き添いの方1名は無料
※5月24日(土)は満70歳以上の方無料
※土曜日は高校生以下無料
※【和装deお得】着物や甚平等を身につけて入館の方は団体割引適用
休館日 毎週月曜日
会場 茨城県天心記念五浦美術館 展示室A・B・C

浮世絵展

大河ドラマ「べらぼう」で江戸の出版界を牽引した蔦屋重三郎に脚光が当たる2025年は、全国各地の美術館・博物館で浮世絵の企画展が華やかに開催されています。北斎や広重が描いた江戸の名所絵から役者絵、美人画まで、多彩な浮世絵の世界を体験できる機会が増えており、隅田川の名所を紹介する本展と合わせて巡れば、江戸の庶民文化と美意識をより深く味わうことができるでしょう。

2025年度開催の浮世絵展

施設名 展示名 会期 概要
すみだ北斎美術館 北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで 2025年3月18日~5月25日 北斎と江戸の版元(板元)たちの関係に焦点を当て、浮世絵の出版を支えた版元の役割を紹介。前後期で作品替えあり。
東京国立博物館 平成館 特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」 2025年4月22日~6月15日 喜多川歌麿や東洲斎写楽らを世に送り出した蔦重の業績と江戸文化の多彩な側面を紹介。多数の作品を通じて江戸時代のコンテンツビジネスの姿を探る。
上野の森美術館 五大浮世絵師展 歌麿 写楽 北斎 広重 国芳 2025年5月27日~7月6日 喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳という江戸時代を代表する5人の浮世絵師の代表作約140点を紹介。