デザインとコーディングは別の仕事―そう思っていた私も、現場に出てから考えが変わりました。コーディングを理解しているデザイナーほど、実装を意識した構成やレイアウトができ、チームとの信頼関係も築きやすいのです。私自身、レスポンシブデザインが広まり始めた頃に、知識の差から起こる"すれ違い"を何度も経験しました。この記事では、Webデザイナーがコーディングを学ぶことで得られる本当のメリット、そして「どこまで学べば十分なのか」を、実体験を交えて解説します。
- 1. Webデザイナーにコーディング知識は必要? ― 結論:理解しているだけで差が出る
- デザインと実装は別物ではなく地続き
- 構造を意識した設計ができるデザイナーは強い
- 知識がないと起きる"すれ違い"と現場の摩擦
- 2. コーディングを学ぶメリット ― デザイン力と信頼が同時に上がる
- 「実装できるデザイン」は提案力が上がる
- コーダー・エンジニアとの連携が滑らかになる
- 就職・単価・AI時代で二刀流が有利に働く
- 3. コーディングを学ぶデメリット ― 時間・費用・バランスの壁
- どちらも完璧は非現実的という問題
- 学習コスト増・期間延長・挫折リスク
- 意識しすぎると"無難なデザイン"になりやすい
- 4. どこまで学べばいい? ― 現場で求められる理解レベルの目安
- HTML/CSSの「読める・直せる」レベルで十分
- JavaScriptやPHPは"理解できる"でOK
- 現場では「理解している人」が評価される
- 5. コーディングを学ぶ最適な順序 ― デザインを活かす学び方
- FigmaのデザインをHTML/CSSで再現してみる
- レスポンシブデザインで「現場感覚」をつかむ
- JavaScriptの基本を「動きから逆算して」学ぶ

1. Webデザイナーにコーディング知識は必要? ― 結論:理解しているだけで差が出る
分業が進む現場でも、HTMLやCSSの仕組みを知っているかどうかで、完成するデザインの品質に明確な差が出ます。ここでは、なぜ"理解だけでも"大きな違いになるのか、現場で実際に起こるすれ違いを交えながら整理していきます。
デザインと実装は別物ではなく地続き
Webデザインは、コードによってはじめてユーザーの画面に再現されます。つまり、デザインとコーディングは「分業」ではあっても「断絶」ではありません。デザインの構造や余白、ボタンの挙動などはすべてHTMLやCSSの制約の上に成り立っています。
この仕組みを理解しているデザイナーは、初期段階から「実装を意識した設計」ができます。たとえば、再利用しやすいボタン構成、崩れにくいレイアウト、スマホとPC両対応の見せ方などを自然に考えられるようになります。こうした積み重ねが、納期の安定と修正の少なさにつながるのです。
一方、仕組みをまったく理解していないと、ブラウザで再現しにくい構成を平気で設計してしまい、コーダーが苦労する原因になります。デザインと実装は、地続きの一本の線の上にある。この意識を持てるだけで、成果物の安定感が変わります。
構造を意識した設計ができるデザイナーは強い
HTML/CSSの基本を理解していると、自然と"構造"を意識したデザインができるようになります。たとえば、見出しの階層やリストの使い方、要素のまとまりを考えてレイアウトを作ることで、後からコードに変換しやすいデザインになります。
また、CSSで装飾する範囲を想像できるため、「どこを固定し、どこを柔軟に変えるか」という設計判断も正確になります。これは、レスポンシブデザインを考える上で特に重要です。どの情報を優先して見せるか、画面サイズごとにどんな要素を削るか、自然と考えられるようになります。
結果として、「実装で崩れない」「修正しやすい」デザインが作れるようになります。こうした視点を持つデザイナーは、単に"見た目がきれい"なだけでなく、"再現性が高い"という強みを発揮します。
知識がないと起きる"すれ違い"と現場の摩擦
コーディングを知らないデザイナーの依頼は、現場でトラブルの原因になることがあります。私はふだん、デザインとコーディングの両方を担当していますが、かつてコーディング専門で働いていたとき、こんな経験がありました。
当時はレスポンシブデザインが普及し始めた頃でしたが、PC前提で作られたデザインをそのままスマホでも再現するよう求められることがよくありました。中でも印象的だったのが、「1ピクセル単位でぴったり合わせてください」と指示されたケースです。
デザインを忠実に再現しようとすると、実装に大きな負担がかかり、とても苦労しました。細部までデザインにこだわる一方で、実装側の制約が伝わっていないとコミュニケーションギャップが生まれやすくなります。
デザインの自由を守るためにも、実装の基本を知っておくことは欠かせません。最低限のHTMLやCSSの知識があれば、「ここは難しい」「この方法なら実現できる」といった建設的な会話ができるようになります。
コーディングの理解は、コーダーやエンジニアと協力してより良い成果を出すための"共通言語"になります。ツールの使い方だけでなく、仕組みへの理解を深めることが、プロとしての信頼やチームの連携力にもつながっていきます。
2. コーディングを学ぶメリット ― デザイン力と信頼が同時に上がる
コーディングを学ぶことで得られるメリットは、単に「自分で作業ができるようになる」ことではありません。クライアントやエンジニアとのコミュニケーションが円滑になり、説得力のある提案ができるようになります。この章では、コーディング理解がもたらす3つの大きな利点を解説します。
「実装できるデザイン」は提案力が上がる
コーディングを理解しているデザイナーは、デザイン案を提示するときに「どのように実装できるか」まで説明できます。これが、クライアントの信頼につながります。たとえば「この動きはCSSアニメーションで再現できます」「この構成ならレスポンシブでも崩れません」と根拠をもって伝えられるだけで、提案の説得力が格段に増します。
また、制作中に発生する修正や追加依頼にも柔軟に対応できます。変更が技術的に難しい場合も、代替案をその場で示すことができるため、クライアントとのやり取りがスムーズです。「できる/できない」の判断を自分でつけられることが、プロとしての安心感を与えます。
実装を意識してデザインを作ることは、「現実的な提案ができる人」として評価される大きなポイントです。見た目の美しさだけでなく、技術的な裏付けを持つデザイナーは、どの現場でも重宝されます。
コーダー・エンジニアとの連携が滑らかになる
デザインと実装の橋渡しができることも大きな強みです。たとえば、ブレークポイントやフォントサイズの調整、コンポーネント単位での設計意図を伝えられると、コーダーやエンジニアとのやり取りが格段にスムーズになります。
現場でトラブルになるのは、デザインの意図が正しく伝わらないときです。ボタンの余白ひとつをとっても、「固定値」か「自動調整」かが共有されていないだけで、修正が何度も発生します。最初に設計思想を明確に示せるデザイナーは、実装者からも信頼されます。
さらに、基本的なHTML構造やCSSの仕組みを知っていれば、相手の意見も理解しやすくなります。お互いの領域を尊重しながら、より良い方向を一緒に探る「チームとしての連携」ができるようになります。結果として、納期短縮・品質向上・職場の雰囲気改善につながります。
就職・単価・AI時代で二刀流が有利に働く
コーディングを理解しているデザイナーは、採用市場でも有利です。企業は「すぐに現場で動ける人材」を求めているため、HTML/CSSの基礎知識があるだけで教育コストを下げられます。また、副業やフリーランスでも、簡単な修正を自分で行える人は作業範囲が広く、報酬単価も上がりやすいです。
さらに、AI時代においてもこの知識は強力な武器になります。AIにコーディングを任せるとしても、構造を理解していなければ正確な指示(プロンプト)が出せません。AIが出力したコードを読んで修正できる人は、今後の制作現場で確実に価値を持ちます。
コーディングが「デザインの幅を狭める」時代は終わりました。いまはむしろ、「仕組みを理解して使いこなす」デザイナーが活躍する時代です。デザインとコードの両輪を持つことが、AIと共存するこれからの制作現場での強みになります。
3. コーディングを学ぶデメリット ― 時間・費用・バランスの壁
コーディングを学ぶことには多くのメリットがありますが、当然ながら良い面ばかりではありません。時間・費用・労力がかかり、場合によっては本来の目的を見失うこともあります。ここでは、学び始める前に知っておきたい現実的なデメリットを整理します。
どちらも完璧は非現実的という問題
デザインとコーディングの両方を完全に極めようとするのは、時間的にも現実的ではありません。どちらも専門性が深く、常に新しい技術が登場します。そのため、両立しようとすると学習量が膨大になり、結果的にどちらも中途半端に感じる時期が訪れます。
このジレンマに陥る人は少なくありません。「どこまでを自分でできるようにするか」「どこから他職種と連携するか」を最初に決めておくことが大切です。たとえば、HTML/CSSは自分で触れるようにし、JavaScript以降は理解の範囲にとどめる。線引きをしておくと、焦りが減り、学びのバランスが取れます。
両方を追い求めるよりも、「デザインを強みに、コーディングを補助スキルにする」という形で広げたほうが、現実的で継続しやすい学び方です。
学習コスト増・期間延長・挫折リスク
コーディングを学ぶとなると、時間もお金もそれなりにかかります。スクールを利用する場合は受講料が高くなり、独学でも環境構築・教材購入・学習時間の確保が必要です。特に働きながら学ぶ場合は、デザインの学習と並行することでスケジュールが圧迫され、途中で挫折してしまう人も多くいます。
また、最初のうちは「理解したつもり」になりやすく、エラーや思い通りに動かない場面でモチベーションが大きく下がります。これを防ぐには、学習目的を小さく区切り、「今の自分に必要な範囲」を明確にして取り組むことです。最初から完璧を目指すと、燃え尽きてしまいます。
学習コストの高さを理解したうえで、「デザインに必要な部分だけを確実に身につける」という割り切りも、立派な戦略です。
意識しすぎると"無難なデザイン"になりやすい
コーディングを意識しすぎると、逆にデザインの発想が狭まることがあります。たとえば、「この動きはCSSで難しい」「この構成は工数がかかる」といった考えが先に立ち、挑戦的なアイデアを避けてしまうケースです。結果として、無難で似たようなデザインにまとまってしまうことがあります。
もちろん、現実的な判断は大切ですが、最初から制約を前提に発想してしまうと、表現の幅がどんどん狭くなります。まずは自由にアイデアを出し、その後で実装可能な範囲に調整するほうが、結果的に印象に残るデザインになります。
「技術を知ること」は創造性を制限するためではなく、「実現するための道筋を増やすこと」です。技術を理由に諦めない姿勢が、デザイナーとしての魅力を保ち続ける秘訣です。
4. どこまで学べばいい? ― 現場で求められる理解レベルの目安
「コーディングをどこまで学べばいいのか?」は、多くの初心者が悩むポイントです。すべてを完璧に習得する必要はありません。目的と仕事のスタイルに合わせて"必要十分"を見極めるのが現実的です。ここでは、Webデザイナーとして押さえておくべき理解レベルの目安を紹介します。
HTML/CSSの「読める・直せる」レベルで十分
Webデザイナーに求められるのは、コードを完璧に書けるスキルではなく、「仕組みを理解して判断できる力」です。たとえば、HTMLで見出しタグ(h1~h3)や段落(p)の構造を理解していれば、SEOやアクセシビリティを考慮したデザインができます。CSSのプロパティを理解していれば、余白や文字の間隔を適切に指定できます。
実務では、デザインカンプをもとにコーダーが実装を行う場合も多いため、「読める・直せる」程度でも十分です。実際にブラウザのデベロッパーツールでスタイルを確認し、ちょっとした調整を自分でできると、修正のスピードが一気に上がります。
つまり、「コーディングを使って何をしたいか」を明確にし、その目的を達成できる範囲で学ぶのが最も効率的です。
JavaScriptやPHPは"理解できる"でOK
アニメーションや動的な仕組みを扱うJavaScript、フォーム送信やデータ処理を担うPHPは、Web制作に欠かせない技術ですが、デザイナーが深く習得する必要はありません。「どんなときに使われるか」「何を実現する言語か」を理解しておけば十分です。
たとえば、JavaScriptのライブラリ「Swiper」でスライダーを実装できることを知っていれば、提案時に「トップページに自動スライドを入れたい」といったアイデアを自信をもって出せます。仕組みを理解しているだけで、エンジニアとの会話がスムーズになります。
また、AI時代では、コード生成ツールに「どんな動きを実現したいか」を正確に伝えるスキルが求められます。コードを"書く"よりも"理解して指示する"力が重視される時代になってきています。
現場では「理解している人」が評価される
実務では、「デザインと実装の間をつなげる人」が最も重宝されます。たとえば、UIデザインを渡すときに「この余白はrem単位で調整できます」「このパーツはコンポーネント化して再利用できます」と伝えられると、開発チーム全体の作業効率が上がります。
実際、企業の求人でも「HTML/CSSの基礎理解がある方歓迎」といった条件が多く見られます。これは、手を動かせることよりも"構造を理解して会話ができること"を評価しているからです。自分のデザインがどのように動くのかを理解しているだけで、提案の質も大きく変わります。
コーディングの理解は「実装者の視点を持つ」ということでもあります。相手の仕事を理解する姿勢が、結果的にあなたのデザインをより実現性の高いものにしてくれます。
5. コーディングを学ぶ最適な順序 ― デザインを活かす学び方
いざコーディングを学ぼうと思っても、「何から始めればいいの?」と迷う人は多いでしょう。ここでは、Webデザイナーが無理なくスキルを広げていける学習のステップを紹介します。デザインの理解を活かしながら学ぶことで、学習効果を最大化できます。
FigmaのデザインをHTML/CSSで再現してみる
最初に取り組むべきは、「静止画のデザインをWeb上で再現する」ことです。これは、コーディングの基礎を自然に身につける最短ルートです。たとえば、Figmaで作った1枚のランディングページを、自分でHTMLとCSSを使って再現してみましょう。
実際にコードを書くと、余白の取り方やテキストの改行ルール、要素の階層構造など、デザインだけでは見えなかった"仕組み"が理解できます。特にFlexboxやGridの扱いを覚えると、レイアウトの仕組みが一気に腑に落ちるはずです。
まずは1枚でOKです。動的な部分を考えず、静的に「形を再現する」ことに集中しましょう。これがデザインとコーディングをつなぐ最初の橋になります。
レスポンシブデザインで「現場感覚」をつかむ
次のステップは、同じページをスマホ対応させることです。ここで初めて「レスポンシブデザイン」の考え方が実感できます。画面サイズを変えたときに、テキストが読みにくくなったり、ボタンが重なったりする。そうした"ズレ"を調整していく過程が、まさに現場での実装作業そのものです。
この段階で理解しておきたいのが「メディアクエリ」と「相対単位(%・vw・remなど)」です。CSSでこれらを使いこなすことで、PCからスマホまで自然に表示を切り替えられるようになります。
自分のデザインが"どんな環境で見られるのか"を考える力は、デザイナーとしての成長を大きく後押しします。単にコードを覚えるよりも、体験を通して理解することが重要です。
JavaScriptの基本を「動きから逆算して」学ぶ
ある程度HTML/CSSに慣れたら、次はJavaScriptを少しだけ学びましょう。ただし、最初から文法を丸暗記する必要はありません。自分のデザインに「どんな動きをつけたいか」から逆算するのがポイントです。
たとえば「ボタンを押したら画像が切り替わる」「メニューがスライド表示される」など、目的を決めてから調べるようにすると、理解が早まります。jQueryやSwiperのようなライブラリを活用すれば、短時間でプロっぽい動きを再現できます。
AIツールを使う場合も、動作を説明できる知識があると、生成されるコードの質が格段に上がります。「自分が作りたい体験を言葉で説明できる」ことこそ、今の時代の学び方です。
Webデザイナーとコーディング知識のまとめ
- コーディングの知識は、Webデザイナーの視野と提案力を広げる
- 仕組みを理解していると、実装者との連携がスムーズになる
- HTML/CSSは「読める・直せる」レベルで十分に役立つ
- JavaScriptやPHPは「使われ方」を理解するだけでも効果的
- 技術を知ることは、表現の制限ではなく"実現の選択肢"を増やすこと
- デザインとコーディングの両方を理解する人材は現場で高く評価される
- 最初の一歩は、FigmaのデザインをHTML/CSSで再現してみることから
- レスポンシブ対応を通して、実務的な"現場感覚"を身につける
- JavaScriptは「動きの目的」から逆算して学ぶと理解が深まる
- AIツールの活用には、仕組みを理解して正確に指示する力が重要
- コーディングを学ぶ目的は"完璧に書くこと"ではなく"伝わるデザイン"を作ること
- デザイナーがコードを知ることは、チーム全体の品質を高める第一歩になる
