「デザイン＝装飾」という誤解が生まれる理由

多くの人がデザインを「見た目を整えること」だと誤解しています。

その背景には、SNSや広告で見た目の良さだけが評価されやすい文化があります。美しく仕上げること自体は悪いことではありませんが、それだけを目的にしてしまうと、本来の「伝える」という役割が抜け落ちてしまいます。

プロのデザイナーは、色や形の選択に必ず理由を持っていて、強調色をどこに置くか、文字の階層をどう分けるか―それらはすべて意図を伝えるための設計です。デザインを飾りではなく「伝達のための構築」として見られるようになると、見方が一気に変わります。

本来のデザインは「課題を解決するための設計」

デザインの語源は「設計する」「意図を形にする」という意味を持つラテン語のdesignareです。つまりデザインとは、課題を解決するためのプロセスそのもの。Webデザインでいえば、「情報をどう見せるか」「ユーザーに何をしてもらいたいか」を設計することが仕事です。

たとえば、ボタンの色を赤にするのは目立たせるためではなく、"行動を促すため"。このように、1つひとつの選択に意図があるのがデザインの本質です。意図のない装飾は「飾り」になり、意図のある構成が「デザイン」になります。

伝わるデザインは「目的」「情報」「構造」でできている

伝わるデザインには3つの要素があります。それは「目的」「情報」「構造」です。目的は"何を伝えたいのか"、情報は"どんな内容を見せるのか"、構造は"どう配置して伝えるか"です。この3つがそろって初めて、デザインは機能します。

目的が曖昧だと、どれほど美しくても伝わりません。逆に、構造が整理されていれば、シンプルでも理解されやすい。見た目を整える前に、まず目的と情報を明確にし、伝わる構造を作ること。そこからがデザインの始まりです。

アートは自己表現、デザインは他者のための設計

アートの目的は、作者の感情や思想を自由に表現することにあります。作品の評価は主観的であり、理解されるかどうかは重要ではありません。いっぽうで、デザインは他者に伝えるための設計です。使う人、見る人がいて初めて成り立ちます。

Webデザインにおいては、「誰が」「どんな目的で」「どう感じてほしいか」を前提に構築されます。制作者の好みではなく、利用者の体験を中心に置くこと。ここがアートとの決定的な違いです。

Webデザイナーに求められるのは表現より設計

多くの初心者は、印象的なデザインを作ろうとして、色や形の派手さに意識が向きがちです。しかし、ユーザーが使いづらいと感じた瞬間に、そのデザインは失敗です。Webデザイナーに求められるのは、感覚ではなく「設計の整合性」です。

配置、余白、導線、階層―それぞれの要素に明確な意図を持たせることがプロの仕事です。見せ方ではなく、伝え方を設計する。その視点に立つことで、見た目だけに頼らない説得力のあるデザインが生まれます。

感性は不要ではない ― 美しさを設計に活かす

デザインにおいて感性は決して不要ではありません。ただし、それは思いつきではなく、判断の精度を高めるために使います。感性は設計を支える直感であり、主役ではありません。

余白の取り方や配色のバランスなど、数値では測れない部分があります。そこに感性が活きます。しかし、根拠のないデザインは再現も改善もできません。感性と論理を行き来しながら、理由のある美しさを設計する―それがプロのデザイナーの姿勢です。

良いデザインは整理から始まる

デザインを始めるとき、多くの人はすぐに色や形を考えます。しかし、最初にやるべきことは「情報の整理」です。何を伝えるかが決まらないままでは、どんなに整ったデザインでも目的を果たせません。デザインとは"見せたい順番"を決める作業でもあります。

優先順位、関連性、強調するポイント。この3つを整理するだけで、構成の方向が見えてきます。どの情報を目立たせ、どの要素を控えめにするか。その判断が、見た目よりもはるかに大切です。整理されたデザインは、ユーザーにストレスなく情報を届けることができるのです。

目的を決めて構造を作る ― ワイヤーフレームの考え方

構成を考えるうえで役立つのが、ワイヤーフレームです。ワイヤーフレームとは、ページの骨格を設計するための図で、どの要素をどこに配置するかを決める段階です。ここではデザインよりも「情報の流れ」を重視します。

たとえば、ユーザーが商品を理解し、問い合わせに進むページなら、「共感 → 説明 → 信頼 → 行動」という順序を設計します。この流れを整理しておくと、デザインの方向性が自然に決まります。見た目の装飾よりも、構造を明確にすることが伝わるデザインの第一歩です。

見せたいではなく、伝わるを基準に判断する

デザインを学び始めた頃は、「見せたいもの」を中心に考えがちです。しかし、見る側が理解しづらければ意味がありません。プロのデザイナーは常に「伝わるかどうか」を判断基準にしています。見た目を整えるのは最後の段階です。

構成を整え、情報の優先度を決め、余白で呼吸を作る。そうした小さな判断の積み重ねが、伝わるデザインを形にします。センスではなく仕組みで伝える。これがデザイン思考の出発点です。