約4万年前の日本列島で、人びとは獲物を求めて遊動的に暮らしていました。文字のない時代を知る手がかりは、地中に残された石器や動物骨、植物などです。山形県立博物館のプライム企画展「極東の狩人-阿部祥人が追い求めた氷河期の開拓者たち-」は、こうした資料と考古学研究を通して、最終氷期を生きた人びとの姿を探る企画です。展示では、山形県出身の考古学者・故阿部祥人(あべよしと)氏に焦点を当て、阿部氏が中心となって調査を進めた遺跡の資料も紹介される予定です。展示を入口に、日本の旧石器時代がいつ始まり、人びとがどのような道具を使い、考古学者が暮らしをどう復元してきたのかをたどります。
-
約4万年前の狩人を、阿部祥人の研究からたどる
-
動物骨・植物・石器が伝える氷河期
-
開催情報
-
関連イベント
-
旧石器時代の狩人を知る3つの手がかり
-
日本の旧石器時代はいつ始まったのか
-
旧石器時代にはどのような石器が使われたのか
-
焚き火と森の跡から暮らしを探る

約4万年前の狩人を、阿部祥人の研究からたどる
動物骨・植物・石器が伝える氷河期
山形県立博物館の公式ページでは、人類が日本列島へ渡ってきたのは約4万年前とし、当時の人びとを獲物を求めて遊動的に暮らす狩人として紹介しています。最終氷期にあたる旧石器時代の遺跡は全国で1万カ所以上が確認され、山形県内では108カ所。東北地方では最多とされています。
企画展では、県内外から出土した動物骨、植物、石器を手がかりに、寒冷な環境へ適応した人びとの姿を扱う予定です。文字資料のない時代だけに、研究の出発点となるのは地中に残った具体的な痕跡です。
もう一つの軸となるのが、山形県出身の考古学者・故阿部祥人氏です。展示では、阿部氏が中心となって調査を進めた山形県西川町のお仲間林遺跡(おなかまばやしいせき)と上野A遺跡(うえのえいいせき)、青森県の尻労安部洞窟(しつかりあべどうくついせき)の資料が紹介される予定です。
旧石器時代の研究では、遺跡から出土した資料とともに、どの場所を調査し、どのように資料を読み解いてきたのかという研究の積み重ねも重要になります。
開催情報
| 展示名 | プライム企画展「極東の狩人-阿部祥人が追い求めた氷河期の開拓者たち-」 |
|---|---|
| 主催 | 山形県立博物館 |
| 会場 | 山形県立博物館第3展示室 |
| 会期 | 2026年10月3日(土)~12月20日(日) |
| 開館時間 | 9:00~16:30(最終入館16:00) |
| 入館料 | 一般300円、学生150円。高校生以下、障害者手帳をお持ちの方と付添者は無料。団体割引あり |
| 休館日 | 月曜日。10月12日・11月23日は開館し、翌火曜日が休館 |
関連イベント
| イベント名 | 記念講演会「慶應義塾大学阿部祥人による東北旧石器時代研究」 |
|---|---|
| 日時 | 2026年10月11日(日)13:30~15:30 |
| 講師 | 渡辺丈彦氏(慶應義塾大学文学部教授) |
| 場所 | 山形県立博物館講堂 |
| 定員 | 30名程度 |
| 備考 | 事前申込制・先着順。申込期間は9月8日(火)~10月3日(土)。参加費無料、入館料が必要 |
| イベント名 | 記念講演会「2万年前の埋没林とそこに暮らしたシカたち:立谷川プロジェクトで分かったこと」 |
|---|---|
| 日時 | 2026年12月5日(土)13:30~15:30 |
| 講師 | 久保麦野氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授) |
| 場所 | 山形県立博物館講堂 |
| 定員 | 30名程度 |
| 備考 | 事前申込制・先着順。申込期間は10月18日(日)~11月24日(火)。入館料が必要 |
旧石器時代の狩人を知る3つの手がかり
展示で扱われる石器や動植物の資料をより深く読み取るために、日本の旧石器時代の年代、人類が日本列島へ広がった背景、石器と遺跡から暮らしを探る方法を整理します。
日本の旧石器時代はいつ始まったのか
日本列島の旧石器時代をいつからいつまでと見るかは、公的な博物館の解説でも表記に幅があります。国立歴史民俗博物館は後期旧石器時代を約3万7千~1万6千年前、東京国立博物館は約4万年前から約1万3千年前までを旧石器時代としています。今回の展示が示す約4万年前は、ホモ・サピエンスが日本列島に現れた時期と重なります。
この時代は最終氷期と重なります。最終氷期は約11万~1万2千年前とされ、後期旧石器時代の人びとは、その寒冷な時期に日本列島で暮らしていました。展示名にある氷河期は、こうした長い寒冷期を背景にしています。
日本列島への移動を考えるとき、海の存在も外せません。琉球列島への進出には海を越える必要があり、国立科学博物館は「3万年前の航海徹底再現プロジェクト」で当時の航海を実験的に検証。2019年には丸木舟で台湾から与那国島まで225kmを漕ぎ切りました。2025年には、東京大学や海洋研究開発機構などの研究グループが、約3万年前の黒潮が現在より速かったとする分析結果をScience Advances誌に発表しました。
旧石器時代にはどのような石器が使われたのか
日本列島の旧石器時代には、ナイフ形石器、尖頭器、細石刃などさまざまな石器が使われました。石材にも地域差があり、黒曜石は各地で利用され、東北地方では珪質頁岩(けいしつけつがん)も重要な材料となりました。刃の一部を磨いた局部磨製石斧が作られたことも、日本列島の旧石器時代を特徴づける要素の一つです。
展示の関連イベント名にも登場する石刃は、石器づくりの技術を考えるうえで重要な資料です。石の塊である石核から、細長く形の整った剥片を連続して剥ぎ取る方法を石刃技法といい、そこで作られた剥片を石刃と呼びます。石刃はそのまま利用されるだけでなく、さらに加工してナイフ形石器や彫刻刀形石器などの材料にもなりました。
旧石器時代の後半になると、さらに細長く小型の細石刃も使われるようになります。細石刃は、細石刃核と呼ばれる石核から連続して剥がされた小さな石片です。複数の細石刃を木や骨などの軸にはめ込み、狩猟具の刃として利用したと考えられています。一本の大きな石器を作るだけでなく、小さな刃を組み合わせて道具を構成する技術でした。
お仲間林遺跡については、出土した石刃石器群の製作技術を分析した研究が2019年に山形県埋蔵文化財センターの研究紀要へ掲載されました。研究対象となるのは完成した石器の形だけではありません。どの石材を選び、どの方向から石を割り、どのような順序で石刃を取り出したのか。石器に残された痕跡から製作工程を復元することも、旧石器時代の技術を読み解く方法です。
焚き火と森の跡から暮らしを探る
旧石器時代の暮らしを探る材料は石器だけではありません。宮城県仙台市の富沢遺跡(とみざわいせき)では、約2万年前の森林跡と人間の活動跡が同じ地層から見つかりました。第30次調査のⅣ区27層は、後期旧石器時代の地層です。ここから111点の石器が出土し、森林跡の一角にある焚き火跡の周囲では石器を製作していたことも確認されました。植物の種子、シカのふん、昆虫なども検出されています。
地下に残った木々は、当時の環境を知る資料になりました。焚き火跡では、小さな炭化物が直径70~80cmほどの範囲にまとまり、分析から一晩程度火をたいた跡と考えられています。石器は人が行った作業を、植物や昆虫は周囲の環境を、動物の痕跡はそこにいた生き物を考える手がかりになります。
文字のない旧石器時代では、こうした異なる種類の資料を組み合わせて過去の人間活動と環境を検討します。今回の展示で扱われる動物骨、植物、石器も、それぞれが持つ情報の違いを意識すると、資料の形に加えて、考古学がどのように旧石器時代の人びとへ近づこうとしているのかを考える手がかりになります。
旧石器時代の流れを、マンガでサッとおさらいできる無料コンテンツを公開しています。試験によく出る重要ポイントを、マンガを読みながらチェックできます。ぜひご活用ください。

