土をこね、形をつくり、焼く。とても素朴な手仕事のようでいて、その営みは1万年以上にわたって続いてきました。埼玉県立歴史と民俗の博物館で開催される企画展「土をこねこね1万年~土製品の考古学~」では、ひと、動物、モノをかたどった土製品(どせいひん)が紹介される予定です。土偶や埴輪、動物形土製品、ミニチュアのような資料を通して、昔の人びとが身近な存在をどのように見つめ、どのように形にしたのかを探る内容となっています。
- 土をこねて形にした1万年
- ひと、動物、モノをかたどる展示
- かわいい形から楽しめる考古資料
- 開催情報
- 関連イベント
- 不思議な土製品
- 土偶と埴輪は何が違うのか
- 土偶は女性を表したものなのか
- 土版と土面の不思議な存在感
- かわいいと感じる理由

土をこねて形にした1万年
ひと、動物、モノをかたどる展示
埼玉県立歴史と民俗の博物館の企画展「土をこねこね1万年~土製品の考古学~」は、土で作られたさまざまな形の資料に光を当てる展示です。公式ページでは、土器が生まれた縄文時代以降、暮らしが豊かになるなかで、ひと、動物、モノをかたどった土製品が作られるようになったと説明されています。
展示は、第一章「ひとをかたどる」、第二章「動物をかたどる」、第三章「モノをかたどる」という流れで構成されます。ひとをかたどる章では、土偶と埴輪の表現、大きさ、身なり、作り方、使い方の違いを取り上げます。ひとの全身だけでなく、顔や胴体など、体の一部が土器の装飾として表された資料も紹介されます。
動物をかたどる章では、イヌ、トリ、イノシシなど、土で表された動物に目を向けます。身近な動物がすべて土製品になったわけではなく、一部の動物が選ばれていたようだと説明されています。モノをかたどる章では、縄文時代のキノコ形土製品、弥生時代の銅鐸形土製品、縄文時代のミニチュア土器などを扱います。
主な展示品として、中空ミミズク土偶、人面付き土版、琴を弾く男子埴輪、イヌ形土製品、クルミ形土製品などが挙げられており、顔、楽器、動物、植物の実など、土で表された対象は幅広く、土製品を通して昔の人びとの観察や表現に触れられる展示となっています。
かわいい形から楽しめる考古資料
この展示は、考古資料に詳しくない人でも入りやすい構成になっています。公式ページでは、かわいい、面白いなど感じたことをおしゃべりしながら観覧でき、乳幼児や未就学児などの博物館デビューにもすすめられる展示として案内されています。
人や動物をかたどった土製品は、専門知識がなくても目に入りやすい資料です。顔がある、耳がある、脚がある、楽器を弾いているように見える。そうした第一印象は、資料を理解する入口になります。形を楽しんだあとに、資料名、出土遺跡、時代、展示解説を読むと、土製品が暮らしや祈り、モノの見方につながっていることが少しずつ見えてきます。
考古資料には、用途や意味がすぐには分からないものもあります。かわいい、ふしぎ、少しこわいといった感覚から見始めることで、資料との距離はぐっと近づきます。土製品の表情や形の違いを見ながら、昔の人びとが何を形にしたかったのかを考える時間になりそうです。
開催情報
| 展示名 | 土をこねこね1万年~土製品の考古学~ |
|---|---|
| 主催 | 埼玉県立歴史と民俗の博物館 |
| 会期 | 令和8年7月11日(土)~8月30日(日) |
| 会場 | 埼玉県立歴史と民俗の博物館 季節展示室、特別展示室 |
| 開館時間 | 9:00~17:00(観覧受付は16:30まで) |
| 観覧料 | 一般400円、高校生・学生200円。団体料金(20名以上)は一般250円、高校生・学生150円。常設展観覧料を含む。中学生以下、障がい者手帳等をお持ちの方(付添1名を含む)は無料。「ぐるっとパス」で観覧可。 |
| 休館日 | 月曜日。ただし7月20日(月・祝)、8月17日(月)は開館。 |
関連イベント
| イベント名 | 体験事業「粘土ぺたぺた土版づくり」 |
|---|---|
| 日時 | 令和8年8月16日(日)①10:00~、②14:00~ |
| 場所 | 埼玉県立歴史と民俗の博物館 |
| 備考 | 学芸員による解説付き。小学3年生以上対象。小学生は保護者同伴。費用は企画展観覧料+材料費500円。申込期間は令和8年6月23日(火)~7月23日(木)。 |
| イベント名 | おうちでぬりぬり土製品ぬり絵 |
|---|---|
| 日時 | 企画展開催中 |
| 場所 | 埼玉県立歴史と民俗の博物館 特別展示室 |
| 備考 | 展示資料をモチーフにしたオリジナル塗り絵を配布。費用は企画展観覧料。対象はどなたでも。 |
| イベント名 | 県内施設連携事業「埼玉縄文カード第2弾(土製品編)」 |
|---|---|
| 日時 | 企画展開催中。配布枚数に達するまで。 |
| 場所 | 埼玉県立歴史と民俗の博物館 特別展示室および県内の展示施設11館で配布。 |
| 備考 | 配布施設は12施設、全16種類。費用は企画展観覧料。 |
| イベント名 | 学芸員による展示解説 |
|---|---|
| 日時 | 7月20日(月・祝)、8月8日(土)、8月29日(土)、小学生向け解説8月15日(土)。各日13:30~14:00。 |
| 場所 | 埼玉県立歴史と民俗の博物館 特別展示室 |
| 備考 | 事前申し込み不要。費用は企画展観覧料。開始時刻に特別展示室入口付近に集合。 |
不思議な土製品
展示される資料をより味わうために、土偶、埴輪、土版、土面などの基本を少し整理しておきます。展示資料を見る前に知っておくと、形や用途の違いがつかみやすくなります。
土偶と埴輪は何が違うのか
土偶と埴輪は、どちらも土で作られたひとの形として知られています。形だけを見ると近いものに感じられるかもしれませんが、時代も置かれた場所も異なります。東京国立博物館は、土偶を縄文時代の祈りの道具として説明しています。埴輪については、王の墓である古墳に立て並べられた素焼きの造形と説明されています。
土偶は、縄文時代の集落や生活の場と関わる資料として出土します。小型のものが多く、ひとの姿をかなり省略したり、体の一部を強調したりする例があります。土偶の意味については、祈り、儀礼、生命、再生など、さまざまな見方が示されてきました。破片で出土する例も多いため、形だけでなく、遺跡の中で見つかった場所や、どのように壊れていたのかも重要な手がかりになります。
埴輪は、古墳時代の墓と深く結びつく資料です。古墳の上や周囲に並べられ、人物だけでなく、家、器財、馬なども作られました。人物埴輪には、武人、巫女、琴を弾く人物など、身ぶりや服装が分かるものがあります。土偶が縄文時代の祈りや身体表現を考える資料だとすれば、埴輪は古墳時代の葬送や社会の姿を考える資料です。
土偶は女性を表したものなのか
土偶については、女性を表したものが多いと説明されることがあります。妊娠した女性を思わせる表現が見られるため、子孫繁栄や豊穣を祈る道具と考えられてきました。腹部や胸部が強調された土偶を見ると、生命や出産と結びつけて考えられてきた理由が分かります。
土偶には、地域や時期によって多様な形があります。顔がはっきり表されたもの、胴体のふくらみが目立つもの、手足が省略されたもの、板のように平たいものなど、表現は一様ではありません。すべての土偶を女性像と決めることはできず、用途や意味についても慎重に考える必要があります。
土偶は破片で見つかる例が多い点も重要です。最初から壊すことに意味があったのか、使われたあとに壊れたのか、地中に埋まるまでの過程で壊れたのか。そうした問題は、出土した場所や同じ遺跡から見つかった資料と合わせて検討されます。
展示室で土偶を見るときは、どの部分が人の体に見えるのか、どの部分が強調されているのかを観察するとよいでしょう。顔の表情、手足の省略、胴体のふくらみ、全体の大きさに目を向けると、同じ土偶でもかなり違った印象を受けます。
土版と土面の不思議な存在感
今回の主な展示品には、人面付き土版が挙げられています。土版とは、板状に作られた土製品を指す言葉です。文化遺産オンラインでは、長方形ないし楕円形をした板状の土製品を土版と呼び、土偶や石棒と共通する文様をもつものがあることから、儀礼や祈りに用いられたと考えられていると説明されています。
土版は、土偶のように全身を立体的に表した資料とは違います。平たい面に文様を刻む、穴をあける、顔の表現を加える。限られた面のなかに、線や形を組み合わせて意味を込めた資料です。人面付き土版を見るときは、顔だけでなく、板の形、文様の配置、穴の位置にも目を向けたいところです。
土面も、顔を考えるうえで重要な土製品です。ColBaseに掲載された土面の解説では、縄文時代の中期には登場し、後期から晩期の北日本や東日本で数多く発見されていると紹介されています。顔の形をした土製品を見ると、仮面のように身につけたものを想像しやすいかもしれません。
土版や土面は、土偶ほど広く知られていないかもしれません。けれども、ひとの全身ではなく、顔や文様、板状の形で表すところに、土製品の表現の幅があります。
かわいいと感じる理由
土偶や動物形土製品を見て、かわいいと感じる人は少なくありません。丸い体、短い手足、素朴な顔、小さなサイズ。現代のキャラクターを見る感覚に近い反応が生まれることもあります。今回の展示でも、人や動物の形をした土製品が紹介される予定です。
現代のかわいいという感覚を、そのまま縄文時代や古墳時代の作り手の意図に重ねることはできません。作った人がかわいさを目的にしていたかどうかは、資料だけでは分からない場合があります。私たちがかわいいと感じる形のなかに、当時の人びとの観察、祈り、身近な動物へのまなざし、モノを写そうとする工夫が重なっている可能性があります。
かわいいと感じることは、考古資料を見るよいきっかけになります。そこで止まらず、なぜ丸く作られたのか、どこまで実物に近いのか、どこが省略されているのかを観察すると、作り方の工夫が見えてきます。小さな土製品にも、動物や人の特徴をどの部分で表そうとしたのかがあらわれています。
展示室では、まず第一印象を大切にし、そのあとに資料名、出土遺跡、時代、解説を確認するとよいでしょう。かわいい、ふしぎ、少しこわい。そう感じたところから、資料の見方が少しずつ広がっていきます。

