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2025.08.05

磐田市立中央図書館「イワタ深掘り―イセキでワクワク♪タイムトラベル―」背景解説!磐田市の古墳時代と三角縁神獣鏡、卑弥呼について

磐田市制施行20周年を記念して、20年間の発掘調査で出土した貴重な遺物を展示する特別企画が開催されます。市内9地区に分けて紹介される展示では、古墳時代の暮らしぶりや当時の技術力を物語る出土品の数々を見ることができます。特に注目したいのが、複数の古墳から発見されている三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)でしょう。この神秘的な銅鏡は、古代日本と大陸との交流を示すだけでなく、卑弥呼の時代との深いつながりを秘めているかもしれません。磐田の大地に眠っていた古代のメッセージを、この機会にぜひ読み解いてみてください。

目次
  • 古墳密集地域としての磐田
  • 代表的な古墳群の特徴
  • 三角縁神獣鏡の特徴と意義
  • 魏の皇帝から贈られた「銅鏡百枚」
  • 古代外交の証拠品
  • 中国製か日本製か
  • 古代技術交流の実像
  • 2025年開催中の古墳関連展示

磐田市立中央図書館「イワタ深掘り―イセキでワクワク♪タイムトラベル―」背景解説!磐田市の古墳時代と三角縁神獣鏡、卑弥呼について【歴史ニュース】イメージ画像 作成:junk-word.com
三角縁神獣鏡のイメージ画像(生成AI) 作成:junk-word.com

磐田市の古墳群が語る古代の栄華

古墳密集地域としての磐田

磐田市は静岡県内でも有数の古墳集中地域として知られています。天竜川東岸に形成された磐田原台地の縁辺部を中心に、500基を超える古墳が密集して分布しており、古墳時代を通じて有力な勢力を持つ豪族たちが存在していたことを物語っています。これらの古墳群は、古墳時代前期から後期まで長期間にわたって継続的に築造され、この地域の政治的重要性を示しています。

現在、国の史跡に指定されている古墳群だけでも、銚子塚古墳附小銚子塚古墳(ちょうしつかこふんつきこちょうしつかこふん)新豊院山古墳群(しんぽういんやまこふんぐん)、そして御厨古墳群(みくりやこふんぐん)があります。これらはいずれも学術的価値が極めて高く、古墳時代の社会構造や文化を理解する上で欠かせない遺跡です。特に三角縁神獣鏡をはじめとする副葬品群は、当時の磐田地域がヤマト王権と関わりを持っていた可能性を示唆しています。

磐田原台地という立地も重要な要素です。この台地は太田川や天竜川といった大河川に面しており、古代においては水運による交通の要衝でした。また、肥沃な平野を見下ろす位置にあることから、農業生産の管理にも適した場所だったと考えられます。こうした地理的優位性が、長期間にわたって有力な古墳が築き続けられた背景にあるのでしょう。

代表的な古墳群の特徴

磐田市の古墳群の中でも特に注目すべきは、御厨古墳群です。松林山古墳(全長107m)、高根山古墳(直径52m)、御厨堂山古墳(全長50m)、稲荷山古墳(全長48m)、秋葉山古墳(直径54m)の5基で構成されるこの古墳群は、古墳時代前期から中期にかけての首長墓の変遷を示す貴重な資料となっています。

最大規模の松林山古墳は、4世紀後半に築造された前方後円墳で、静岡県内でも屈指の規模を誇ります。1931年の発掘調査では、竪穴式石室から鏡や多量の鉄製武器類,短甲などの武具、貝製の腕輪などが見つかっています。これらの副葬品の組み合わせは、前期古墳の典型例として現在でも重要な参考資料となっています。

一方、銚子塚古墳附小銚子塚古墳のうち、銚子塚古墳は全長108mの前方後円墳で、静岡県内でも有数の規模を持ちます。その隣に位置する小銚子塚古墳(全長46m)は、前方後方墳です。前方後方墳は静岡県内に数例しか確認されておらず、古墳時代初期の埋葬形態を知る上で極めて貴重な存在です。また、5世紀前半に築造された土器塚古墳(直径36m)からは、管玉と甲冑の破片が発見されており、古墳時代中期の地域有力者の墓として重要な資料となっています。

ここがポイント!

磐田市では500基を超える古墳が発見されており、古墳時代を通じて有力な豪族が継続的に存在していました。前方後円墳に加えて前方後方墳も確認されており、この地域の古墳文化の多様性を物語っています。


古墳時代の権力者が愛した神秘の鏡

三角縁神獣鏡の特徴と意義

三角縁神獣鏡は、古墳時代前期(3~4世紀)の遺跡から数多く発見される青銅製の鏡です。その名前の通り、鏡の縁が三角形の断面を持ち、鏡面の裏側には神々や霊獣の姿が精巧に描かれています。磐田市内では、松林山古墳、新豊院山古墳群2号墳、銚子塚古墳、経塚古墳といった複数の古墳から三角縁神獣鏡が発見されており、当時の磐田地域に有力者が存在したことを示しています。

鏡の最大の特徴は、その優れた製作技術にあるでしょう。鏡面は青銅を丁寧に磨き上げて作られ、裏面には複雑な文様が鋳込まれています。神獣文様には、中国の神話に登場する青龍、白虎、朱雀、玄武といった四神や、想像上の動物たちが描かれており、当時の人々の宗教観や世界観を知る重要な手がかりとなっています。今なお確認できる精巧な文様は、1600年以上前の工芸技術の水準の高さを物語ります。

三角縁神獣鏡は、古墳時代の権力者にとって極めて重要な威信財と考えられています。実用的な鏡としてではなく、権力の象徴や呪術的な道具として使われていたとも言われます。鏡面に映る光は神聖なものとされ、鏡そのものが神の宿る器と考えられていた可能性があります。古墳の副葬品として納められた三角縁神獣鏡には、死者を守護し、来世での安寧を願う意味が込められていたとも推測されています。

卑弥呼の時代との関連性

魏の皇帝から贈られた「銅鏡百枚」

三角縁神獣鏡と卑弥呼の関係を考える上で欠かせないのが、中国の史書『魏志倭人伝』の記録です。この史書には、景初二年(238年)に卑弥呼が魏へ使者を送り、同年十二月に「銅鏡百枚」などを下賜されたことが記されています。この「銅鏡百枚」が三角縁神獣鏡に比定されるという説もありますが、現在も議論が続いています。

卑弥呼の時代は3世紀前半から中頃にかけてですが、磐田市内の銚子塚古墳や松林山古墳は4世紀後半頃の築造と推定されており、時代的には卑弥呼よりも後の時期にあたります。これらの古墳から発見された三角縁神獣鏡は、卑弥呼の時代から続く古墳時代前期の文化的な流れの中で副葬されたものと考えられます。磐田の古墳群は、ヤマト王権との関係があった可能性も推測されています。

古代外交の証拠品

三角縁神獣鏡は、古代日本と中国との交流を物語る重要資料でもあります。鏡の製作技術や文様は明らかに中国由来であり、当時の国際的な文化交流の深さを示しています。鏡面裏側に刻まれた神獣文様や銘文は、中国の神話や思想を反映しており、古代日本がいかに大陸文化を積極的に受け入れていたかがわかります。

磐田市内の古墳から発見された三角縁神獣鏡も、このような国際的な文化交流の産物です。製作地については中国製と日本製の両説がありますが、中国系の文様をもつ鏡が海を越えて伝来し、磐田の地まで届いたことを示す資料でもあります。今回の展示では、こうした古代外交の痕跡を間近で見ることができる貴重な機会となるでしょう。

製作地をめぐる学術論争

中国製か日本製か

三角縁神獣鏡について最も議論されているのが、その製作地です。従来は中国で作られたものが日本に持ち込まれたと考えられてきましたが、現在では日本国内で製作された可能性も指摘されています。この論争の背景には、中国国内では三角縁神獣鏡がほとんど発見されていないという事実があります。

国産説を支持する研究者は、日本で発見される三角縁神獣鏡の数が400面以上ある一方で、中国本土からの出土例が少ないことを根拠としています。また、鏡の銘文や図像に日本独自の要素が含まれている例もあり、中国の技術を学んだ日本国内の工人が製作した可能性が指摘されています。磐田市内の古墳から発見された鏡も、この製作地論争の重要な資料となっています。

古代技術交流の実像

製作地が中国であれ日本であれ、三角縁神獣鏡は古代の高度な技術交流を物語っています。仮に日本国内で製作されたとすれば、中国から技術者が渡来したか、日本の工人が中国で技術を習得して帰国したかのいずれかでしょう。どちらの場合も、当時の国際的な人的交流の活発さを示唆しています。

磐田市内の古墳群から発見された三角縁神獣鏡も、こうした技術交流の成果といえます。鏡面の研磨技術、青銅の鋳造技術、そして複雑な図像を正確に表現する技術など、どれも高度な専門知識を必要とするものでした。

ここがポイント!

三角縁神獣鏡が中国製か日本製かという論争は現在も続いていますが、どちらにせよ古代日本の国際的な技術交流を考えるうえで重要な資料であることに変わりありません。

開催情報

展示名 イワタ深掘り―イセキでワクワク♪タイムトラベル―
主催 磐田市教育委員会 文化財課
会期 2025年7月26日(土)~2025年8月24日(日)
開館時間 午前9時~午後5時
入館料 無料
休館日 月曜日・8月22日(金)

関連展示情報

磐田市の古墳群から発見された三角縁神獣鏡や古墳時代の遺物に関心を持たれた方のために、全国の博物館で開催中の関連展示をご紹介します。埴輪や古墳時代の文化を深く学べる機会として、ぜひこれらの展示も合わせてご覧ください。各施設では磐田市の古墳群と同時代に作られた貴重な遺物を見ることができます。

2025年開催中の古墳関連展示

施設名 展示名 会期 概要
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館 特別公開「富雄丸山古墳 造出し埋葬施設 棺内鏡 2025年8月1日~8月17日 富雄丸山古墳から発見された鏡などの貴重な出土品を特別公開。古墳時代前期の重要な発見を紹介。
群馬県立歴史博物館 国宝展示 綿貫観音山古墳の世界 常設展示(通年) 国宝指定された「群馬県綿貫観音山古墳出土品」を常時展示。副葬品と埴輪群像を通して古墳時代の豪族文化を紹介。
埼玉県立さきたま史跡の博物館 国宝展示室・埼玉古墳群 常設展示(通年) 国宝「金錯銘鉄剣」(現在はレプリカ展示、実物は2026年3月上旬公開予定)をはじめとする稲荷山古墳出土品を展示。
体感!しだみ古墳群ミュージアム 常設展示・体験プログラム 通年(企画展は随時) 志段味古墳群の出土品展示と古墳ガイドツアー。埴輪づくりや勾玉づくりなど古代体験プログラムも充実。

磐田市の古墳群と三角縁神獣鏡のまとめ

  • 磐田市は静岡県内でも有数の古墳集中地域
  • 500基を超える古墳が密集して分布
  • 前方後円墳に加えて前方後方墳も確認
  • この地域の古墳文化の多様性を物語る
  • 松林山古墳は全長107mの大型前方後円墳
  • 銚子塚古墳は静岡県内第3位の規模
  • 三角縁神獣鏡は古墳時代前期の代表的な鏡
  • 権力の象徴や呪術的な道具として使用
  • 鏡面は凸面で実用性より威信財としての価値
  • 魏志倭人伝に記録された「銅鏡百枚」との関連説
  • 卑弥呼の時代は3世紀前半から中頃
  • 磐田の古墳は4世紀後半頃の築造と推定
  • 古墳時代前期の文化的流れの中で副葬
  • 中国製か日本製かで現在も学術論争が継続
  • 古代の高度な技術交流を物語る重要資料