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2025.07.13

最上義光歴史館「妖怪博覧会」開催中|鬼退治の名刀から地獄絵まで 文化的背景を紹介

山形市の最上義光歴史館で開催中の「妖怪博覧会」は、戦国武将と妖怪の意外な関係から、江戸時代の文化まで幅広く紹介する展示です。最上家に伝わった名刀「鬼切(おにきり)」をはじめ、武士と鬼退治の物語、そして時代を超えて愛され続ける妖怪の表現を通じて、日本人の想像力と文化の奥深さを体感できる貴重な機会となっています。

目次
  • 最上家の重宝「鬼切」とその伝説
  • 武士にとっての鬼退治の意味
  • 畏怖から娯楽への変化
  • 地獄めぐりー死後の世界への想像力
  • 妖怪が玩具になった時代
  • 開催情報
  • 2025年開催中・開催予定の妖怪関連展示

最上義光歴史館「妖怪博覧会」開催中|鬼退治の名刀から地獄絵まで 文化的背景を紹介【歴史ニュース】閻魔大王のイメージ画像 作成:junk-word.com
閻魔大王(えんまだいおう) AIによるイメージ画像 作成:junk-word.com


武将が愛した鬼退治の名刀

最上家の重宝「鬼切」とその伝説

最上義光歴史館の企画展で注目すべきは、最上家に伝来した名刀「鬼切」の存在です。

この太刀は平安時代の名工・伯耆(ほうき)の安綱(やすつな)によって鍛えられ、「鬼切」という名前の由来は複数の説があり、大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)退治、牛鬼(うしおに・ぎゅうき)や茨木童子((いばらきどうじ))といった鬼との戦いに使用されたためとも伝えられています。

鎌倉時代の武将新田義貞(にったよしさだ)が佩刀していたとされ、その後斯波家を経て最上家に伝わりました。現在は北野天満宮に所蔵されています。


武士にとっての鬼退治の意味

戦国時代の武将にとって、鬼退治の伝説を持つ名刀を所有することは、自らの武勇と正統性を示す重要な象徴でした。

最上義光(もがみよしあき)のような戦国大名は、領国経営において実際の戦闘能力だけでなく、家臣や民衆に対する威信も必要としており、このような伝説的な武具は政治的な意味も持っていたのでしょう。

また、鬼退治の物語は善悪が明確で、民衆にとっても理解しやすい正義の象徴でした。武将が鬼退治の名刀を持つことは、その威厳や支配の正当性を民衆に印象づけるうえで有効な手段だったといえます。

江戸時代に花開いた妖怪文化

畏怖から娯楽への変化

江戸時代に入ると、妖怪に対する人々の意識は大きく変化しました。それまで畏怖の対象であった妖怪が、都市部を中心に娯楽として楽しまれるようになったのです。出版技術の向上とともに、妖怪を題材とした草双紙や浮世絵が大量に制作され、庶民の間で人気を博しました。

特に18世紀後期には、鳥山石燕による「画図百鬼夜行」をはじめとする妖怪図鑑が刊行され、妖怪の視覚的なイメージが広く普及しました。河童や天狗などの妖怪像もこの時代の出版物が大きく影響しています。

地獄めぐりー死後の世界への想像力

例えば『地獄草紙』や六道絵に代表される地獄図は、木版刷りや掛軸として多く制作され、庶民は恐怖と教訓を同時に味わいながら鑑賞しました。

こうした地獄絵文化は水木しげるの作品にも受け継がれ、2017年の三井記念美術館「地獄絵ワンダーランド」展でも再評価されました。

本展でも、河鍋暁斎筆『暁斎画壇』の地獄図や、地元寺院から借用した三幅対の地獄変相図を展示し、地獄の苦痛と恐怖を正面から描いた図像の系譜を通じて死後観の多様性に触れられます。

国宝「地獄草紙(じごくぞうし)」出典:ColBase
国宝「地獄草紙(じごくぞうし)」出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)


妖怪が玩具になった時代

やがて妖怪は、子どもの玩具としても親しまれる存在となりました。「化物づくし」と題された錦絵や、妖怪をモチーフにした双六やかるたなどが制作され、妖怪の名前や特徴を遊びながら学ぶ文化も生まれました。

これらの玩具は娯楽であると同時に教育的な側面もあり、子どもたちは遊びながら妖怪の名前や特徴を覚えていました。また、百物語と呼ばれる怪談会も江戸時代に流行し、妖怪は日常生活に根ざした文化的存在となっていきました。


ここがポイント!

江戸時代の妖怪文化は、現代のキャラクター文化の原型とも言える存在でした。名前と視覚的特徴によって識別される妖怪たちは、当時の人々に愛され親しまれていました。この時代の人々の「虚構を虚構として楽しむ」精神が、今日の日本のサブカルチャーの基盤を築いたと言えるでしょう。

開催情報

展示名 企画展「妖怪博覧会」大手町会場 ~ もののけ、その歴史と物語 ~
主催 公益財団法人山形市文化振興事業団
共催 山形市
会期 令和7年7月2日(水)~ 10月13日(祝/月)
会場 最上義光歴史館(山形市大手町1-53)第一展示室北側展示ケース
開館時間 午前9時から午後4時30分まで
入館料 無料

※今回の企画展は最上義光歴史館と山寺芭蕉記念館との連携展覧会です。

全国の妖怪関連展示

2025年現在、妖怪をテーマとした展示が開催されています。浮世絵に描かれた伝統的な妖怪から現代アートまで、妖怪の魅力を紹介する展示が行われています。

2025年開催中・開催予定の妖怪関連展示

施設名 展示名 会期 概要
三次もののけミュージアム 夏と秋の特別企画展「妖怪を描いた浮世絵師たち 2025年6月27日~11月18日 葛飾北斎、歌川国芳、月岡芳年など当代の人気絵師が描いた妖怪浮世絵の傑作を多数展示。浮世絵師たちが彩った江戸の妖怪ブームをたどる企画展。
小豆島妖怪美術館 妖怪はいない、あるいは見えないだけかもしれない 常設展示 現代の妖怪が世界中から800体以上集まる体験型美術館。音声ガイドを聴きながら妖怪の起源から現代に至るまでの物語をたどることができる。

妖怪博覧会と江戸時代の妖怪文化のまとめ

  • 最上家に平安時代の名刀「鬼切」が伝来
  • 伯耆の安綱が鍛えた鬼退治伝説の太刀
  • 新田義貞→斯波家→最上家へと受け継がれた
  • 戦国武将にとって名刀は威信の象徴
  • 鬼退治物語は民衆に分かりやすい正義
  • 江戸時代に妖怪が畏怖から娯楽の対象へ
  • 18世紀後期に鳥山石燕が妖怪図鑑を刊行
  • 河童や天狗の姿が出版物で統一された
  • 地獄絵は死後の世界への想像力を表現
  • 妖怪が子どもの玩具として親しまれた
  • 双六やかるたで妖怪を楽しむ文化が誕生
  • 百物語など怪談会が江戸時代に流行
  • 「虚構を楽しむ」精神が現代文化の基盤