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2025.06.23

国宝「山鳥毛」特別展示 上杉謙信ゆかりの名刀が上越市立歴史博物館で公開

戦国時代の名将・上杉謙信の愛刀として知られる国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」が、新潟県上越市立歴史博物館で特別展示されます。この刀は鎌倉時代中期に備前国で活動した福岡一文字派によって作られ、その美しい刃文から名付けられました。現在は岡山県瀬戸内市が所蔵し備前長船刀剣博物館で保管されている名刀が、謙信公ゆかりの地・上越市で公開される今回の展示は、地域を超えて歴史を感じられる貴重な機会となりそうです。

目次
  • 後鳥羽上皇に愛された備前の名工たち
  • 名刀が結んだ上杉家の絆
  • 開催情報
  • 2025〜26年開催の刀剣関連展

国宝「山鳥毛」特別展示 上杉謙信ゆかりの名刀が上越市立歴史博物館で公開【歴史ニュース】イメージ画像作成:junk-word.com
上杉謙信ゆかりの名刀 AIによるイメージ画像 作成:junk-word.com

鎌倉時代の刀工集団「福岡一文字派」の技

後鳥羽上皇に愛された備前の名工たち

山鳥毛(さんちょうもう、やまとりげ)を生み出した福岡一文字派は、鎌倉時代初期から中期にかけて備前国(現在の岡山県東部)で活動した刀工集団です。この一派の特徴は、茎(なかご)に「一」の文字を刻むことでした。「一」は「天下一」を意味するとされ、その技術の高さを物語っています。

福岡一文字派の始祖とされる則宗は、後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)によって創設された「御番鍛冶(ごばんかじ)制度」において重要な役割を果たしました。この制度は、各地の優秀な刀工を月番で京都に召し出し、上皇のために刀を作らせるものでした。御番鍛冶に選ばれた刀工の中でも、備前国からは多くの刀工が選出され、その技術水準の高さを示しています。

福岡一文字派が拠点とした福岡庄は、後鳥羽院の御番鍛冶に選ばれた刀工を多く輩出した地域とされ、刀工たちは比較的安定した環境で作刀に専念できたと考えられています。このような恵まれた条件下で、彼らは「重花丁子乱れ(じゅうかちょうじみだれ)」と呼ばれる複数の丁子文が重なり合った華やかな刃文を完成させました。山鳥毛もこの技法によって作られており、変化に富んだ美しい刃文は見る者を魅了し続けています。

名刀が結んだ上杉家の絆

山鳥毛が上杉謙信の手に渡った経緯は、戦国時代の政治情勢と深く関わっています。1552年(天文21年)、関東管領だった上杉憲政は北条氏康に敗れて上野・平井城を失い越後へ逃れました。その後、憲政は長尾景虎(後の上杉謙信)を養子とし、1561年に家督と関東管領職を正式に譲っています。

この家督継承は名義上だけのものではありませんでした。憲政は上杉家代々の系図や伝来の重宝とともに、山鳥毛も景虎に託したのです。景虎はこの時から上杉政虎と名を改め、後に足利義輝から「輝」の字を賜って輝虎となり、最終的に謙信と名乗るようになりました。

謙信の死後、山鳥毛は養子の上杉景勝(かげかつ)に受け継がれました。景勝は刀剣の鑑識眼が高く、上杉家の刀剣目録「上杉景勝腰物目録(こしものもくろく)」を自ら作成したほどでした。この目録に山鳥毛は「上秘蔵」の項目に記載されており、景勝が特に大切にしていたことがわかります。また、上杉家で伝承される名刀選抜「上杉家御手選三十五腰」にも山鳥毛は含まれていたとされ、上杉家にとって特別な存在であり続けました。

ここがポイント!

山鳥毛の刃文は「重花丁子乱れ」という技法で作られています。これは福岡一文字派が得意とした技法で、丁子(クローブ)のつぼみのような形の刃文が重なり合って華やかな模様を作り出します。この技法は高度な技術を要し、福岡一文字派最盛期の証とされています。山鳥毛の号の由来については、その変化に富んだ激しい刃文が「山鳥の羽毛のようだから」とも「山野が燃えるようだから」とも言われており、複数の説があります。現代でも多くの刀工がこの技法を目標としており、日本刀の美の頂点の一つとして評価されています。

開催情報

展示名 国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」特別展示
主催 新潟県上越市
会期 令和7年8月13日(水)~ 8月24日(日)の12日間
開館時間 9時00分 ~ 19時00分
入館料 大人:1,500円、大学生・高校生:1,000円、中学生以下:無料(1組につき2人まで同行可)
観覧時間 山鳥毛の観覧は1組につき2分間
会場 上越市立歴史博物館(新潟県上越市本城町7-7)

一般枠の申込み期間は7月6日(日)10時から7月18日(金)17時までです(先着順)。

関連展示情報

山鳥毛の特別展示と同時期に、全国の博物館・美術館では刀剣をテーマとした注目の展示が開催されています。徳川家伝来の名刀から九州ゆかりの国宝まで、それぞれ異なる切り口で日本刀の魅力を紹介しており、山鳥毛の展示と合わせて巡ることで、日本刀の歴史と文化をより深く理解できるでしょう。

2025〜26年開催の刀剣関連展

施設名 展示名 会期 概要
徳川美術館 開館90周年記念夏季特別展「時をかける名刀 2025年6月14日~9月7日 徳川家伝来の名刀を中心に、三日月宗近や山姥切国広など天下五剣を含む名品を展示。前後期で展示替えあり
九州国立博物館 開館20周年記念特別展「九州の国宝 きゅーはくのたから 2025年7月5日~8月31日 日光一文字、へし切長谷部、古今伝授の太刀など九州ゆかりの国宝刀剣を展示。九州の地で27年ぶりの大規模国宝展
備前長船刀剣博物館 国宝「山鳥毛」展示公開 2026年3月下旬(予定) 瀬戸内市所蔵の国宝「山鳥毛」の定期公開。日本刀の聖地備前長船での里帰り展示

国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」まとめ

  • 山鳥毛は鎌倉時代中期に福岡一文字派が作った国宝の太刀
  • 福岡一文字派は後鳥羽上皇の御番鍛冶制度で重要な役割を果たした
  • 重花丁子乱れという華やかな刃文が福岡一文字派の特徴
  • 1552年に上杉憲政から長尾景虎(謙信)に家督とともに譲られた
  • 謙信の死後は養子の上杉景勝が受け継いだ
  • 景勝自筆腰物目録の「上秘蔵」項目に山鳥毛が記載されている
  • 上杉家御手選三十五腰にも山鳥毛が含まれているとされる
  • 展示期間は令和7年8月13日から24日までの12日間
  • 会場は上越市立歴史博物館で観覧時間は1組2分間
  • 一般枠申込みは7月6日10時から先着順で受付開始