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2025.06.06

神戸海軍操練所跡発掘調査成果速報展 神戸市埋蔵文化財センターで見る幕末遺構と明治開港の歴史

幕末の1864年から翌年にかけて神戸に存在した神戸海軍操練所。その防波堤跡が2023年の発掘調査で初めて確認され、坂本龍馬が学んだとされる場所の実像解明が進みました。神戸市埋蔵文化財センターで開催中の速報展では、出土品とともに、この操練所がその後の神戸港発展の基盤となった歴史的意義について紹介しています。発掘された遺構は、港町神戸がどのように生まれ、国際貿易港として成長していったかを示す貴重な証拠となっています。

目次
  • 勝海舟の構想と現実のギャップ
  • 神戸開港への歴史的つながり
  • 外国製品が物語る開港直後の神戸
  • 日本と外国の文化が混在した現場
  • 主な幕末関連展示(2025年度)

神戸海軍操練所跡発掘調査成果速報展 神戸市埋蔵文化財センターで見る幕末遺構と明治開港の歴史【歴史ニュース】イメージ図作成:junk-word.com
坂本龍馬と幕末の神戸港イメージ図作成:junk-word.com

操練所から開港港湾都市へ ~神戸発展の起点~

勝海舟の構想と現実のギャップ

神戸海軍操練所は、勝海舟が提唱した「一大共有の海局」という構想のもとに設立されました。これは幕府や諸藩の垣根を越えた挙国一致の海軍を作るという、当時としては革新的なアイデアでした。操練所の総坪数は約1万7,137坪(約5.7ha)と推定されており、その規模の大きさからも構想の壮大さがうかがえます。

しかし現実は厳しく、幕府から年三千両の経費支給があったと伝えられるものの、この額では操練所の運営を賄いきれなかったとされています。さらに、操練所の生徒の中に倒幕派がいることが問題視され、わずか1年で閉鎖されることになったのです。

神戸開港への歴史的つながり

操練所は短命に終わりましたが、その場所は神戸開港の基盤となりました。操練所跡の場所に港湾施設が建設され、1868年の神戸開港につながったとされています。今回の発掘調査では、幕末期の防波堤の上に明治期の防波堤と灯台「燈竿(とうかん)」が建設されており、重層的な遺構が港町としての発展過程を示しています。

注目すべきは、幕末に開港した5港(函館、横浜、新潟、神戸、長崎)のうち、築港までの変遷が確認できる遺構が発掘調査で見つかったのは神戸が初めてだという点です。この発見により、港町神戸がどのように発展を遂げていったかの実像が明らかになりました。

ここがポイント!

神戸海軍操練所は1年という短期間で閉鎖されましたが、その場所が神戸開港の基盤となりました。当時の日本では珍しい国際的な視野を持った教育機関として、その後の日本の近代化に間接的に貢献したと言えるでしょう。

出土品が語る明治初期の国際交流

外国製品が物語る開港直後の神戸

今回の速報展で注目されるのは、明治期の燈竿(灯台)建設現場から出土した外国製品の数々です。特に印象的なのは、オランダ製の濃い緑色のガラス瓶で、ジンなどのアルコールが入っていたと推測されています。

また、当時一般家庭では珍しかった缶詰の空き缶や、「PARIS」と刻印されたインク瓶も発見されています。発掘を担当した神戸市文化財課の学芸員は「灯台建設に携わった作業員が、仕事の合間にかまどで火を起こして食事などをしていたのでは。オランダの酒や缶詰は、近くの外国人施設からもたらされたものかもしれない。インクは現場で図面を書く際に使っていたのでは」と推測しています。

日本と外国の文化が混在した現場

出土品には外国製品だけでなく、京焼系の国産陶磁器も含まれており、日本と外国の文化が混在していた様子がうかがえます。モスクを描いた意匠やアルファベットが刻まれた陶磁器の破片は、開港直後の神戸が既に国際色豊かな場所であったことを物語っています。

これらの出土品は、開港したばかりの神戸での日本人と外国人の交流や共同作業の可能性を示す貴重な史料となっています。当時の国際交流の実態を物語る証拠として、歴史的に重要な意味を持っています。

ここがポイント!

江戸時代は「鎖国」と言われますが、実際には長崎の出島を通じてオランダや中国との貿易が続いていました。神戸開港は、そうした限定的な国際交流から本格的な開国への転換点を示す象徴的な出来事だったのです。

展示名 海軍操練所跡発掘調査成果速報展
主催 神戸市埋蔵文化財センター
会期 5月20日(火)~8月31日(日)
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料 無料
休館日 月曜日、6月24日(火)、7月18日(金)、7月22日(火)、8月12日(火)
※7月21日(月)・8月11日(月)は開館
特別上映 アニメーション「KOBEであえたね」も会場で上映

幕末関連展示

江戸時代後期から幕末にかけての文化や人物に関する展覧会をご紹介します。神戸海軍操練所跡の発掘成果速報展と合わせて観覧することで、幕末から明治維新にかけての激動の時代をより深く理解することができるでしょう。

主な幕末関連展示(2025年度)

施設名 展示名 会期 概要
霊山歴史館(京都) 生誕190年 土方歳三と戊辰戦争 第1期:5月14日~6月29日、第2期:7月1日~9月15日 新選組副長・土方歳三の生誕から190年。35歳で散った激動の人生を紹介。
高知県立坂本龍馬記念館 常設展示 通年(常設展示室の閉室期間:6月19日~6月26日) 坂本龍馬の生涯と思想を紹介する常設展示。2025年度は入館料改定とともに展示内容の充実を図る。
京都佛立ミュージアム 真説 坂本龍馬展 2月21日~6月22日 坂本家から借用した新国家書簡実物と長幕海戦図実物を展示。全国龍馬社中総会に合わせて開催。入館料無料。