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2025.05.24

堺市博物館企画展「堺の技と美 工芸を彩るレッド&ブルー」赤と青が織りなす工芸文化と国際交流

海と陸の交差点として栄えた堺では、古代から現代にかけて豊かな色彩文化が花開いてきました。堺市博物館で開催される企画展「堺の技と美 工芸を彩るレッド&ブルー」では、生命力に溢れる赤と、憧れの象徴である青に焦点を当て、堺の工芸品に込められた職人たちの技と美意識を紹介します。重要文化財の漆塗太鼓形酒筒から、海外から憧れを持って迎えられた青花の磁器まで、約60件の展示を通じて、色彩が物語る堺の歴史と文化の深さを体感できる展覧会です。

目次
  • 湊焼に見る堺独自の陶芸技術
  • 地理的条件が育んだ陶芸の伝統
  • 日本の伝統的な赤色顔料
  • 植物由来の染料と海外からの新しい色材
  • 赤色が持つ文化的意味
  • 海を渡った憧れの青と堺の国際性

堺市博物館企画展「堺の技と美 工芸を彩るレッド&ブルー」赤と青が織りなす工芸文化と国際交流【歴史ニュース】イメージ図 作成:junk-word.com
赤と青が織りなす工芸文化と国際交流イメージ図 作成:junk-word.com

堺の陶芸文化と湊焼の魅力


湊焼に見る堺独自の陶芸技術

展示される湊焼海老形向付は、堺独自の陶芸文化を象徴する作品です。湊焼は、江戸時代初期に京都から移住した楽焼系の陶工たちが、西湊町・東湊町(旧湊村)で窯を開いたのが始まりとされています。

湊焼の特徴は、赤い色彩を活かした造形にあります。展示作品の海老形向付は、赤い伊勢エビをかたどった食器で、おめでたい席で使用されたものでしょう。このような動物をモチーフにした器は、実用性と装飾性を兼ね備えており、堺の陶工たちの創意工夫と技術の高さを物語っています。

地理的条件が育んだ陶芸の伝統

堺が陶芸の地として発展した背景には、恵まれた地理的条件があります。大阪湾に面した立地は、原料となる粘土の確保や焼成に必要な燃料の運搬、完成品の販売網構築において有利に働きました。


ここがポイント!

湊焼は京都の楽焼技術と堺の地理的条件が融合して生まれた独自の陶芸文化です。

赤色の歴史と多彩な表現


日本の伝統的な赤色顔料

日本では古くから、さまざまな材料を用いて赤色を表現してきました。代表的な顔料には、弁柄(ベンガラ)、辰砂(シンシャ)、鉛丹(エンタン)があります。

弁柄は酸化鉄を主成分とする赤土顔料で、日本各地で産出されます。地域によって色味に違いがあり、古代には土器や装身具の彩色に広く用いられました。辰砂は硫化水銀から作られる鮮やかな朱色で、神社仏閣の装飾や高級工芸品に重宝された顔料です。鉛丹は鉛の酸化物から得られるオレンジがかった赤色で、古代の仏像や装飾品の彩色に活用されてきました。

ここがポイント!

同じ赤でも材料によって色合いが大きく異なり、用途に応じて使い分けられていました。

植物由来の染料と海外からの新しい色材

顔料とは別に、布や糸の染色には植物由来の染料が使われていました。茜(あかね)は根から、紅花(べにばな)は花弁から、蘇芳(すおう)は木の芯から赤い色素を抽出し、平安時代以降の衣服や調度品に彩りを添えてきました。

南蛮貿易の時代になると、中南米原産の昆虫から得られるコチニールなど、新しい色材が日本にも伝わります。これらは従来の赤よりも鮮やかな発色を持ち、染色の幅を広げることになりました。さらに幕末から明治にかけては、ヨーロッパで開発された化学合成染料が輸入され、赤色表現に革新がもたらされます。

赤色が持つ文化的意味

日本文化において赤色は特別な意味を持ちます。神社の鳥居や祭りの装飾、祝い事の衣装などに多用されるのは、赤が魔除けや生命力の象徴と考えられてきたためです。

また、赤色は視覚的に注意を引きやすい色として、現代でも重要な情報を伝える際に活用されています。このような赤色の特性は、古くから人々に認識されていたと考えられます。

青花磁器に見る東西文化交流


海を渡った憧れの青と堺の国際性

展示される青花花鳥文盤は、中国明時代後期の白地に藍で絵付けを施した磁器で、青花磁器は中国で誕生後、海上交易によって日本にもたらされました。堺に伝来したこの盤も、国際的な交易ネットワークを物語る貴重な品です。

注目すべきは、展示作品と似た器が堺の17世紀初頭の遺跡から出土していることです。これは堺が単なる中継地点ではなく、これらの美しい磁器が実際に人々の生活の中で愛用されていたことを物語っています。展示される青花花鳥文盤は、青が鮮やかに発色した上質の大皿で、当時の人々にとって憧れの逸品だったことでしょう。


ここがポイント!

青花磁器は美術品であると同時に、国際交易を物語る歴史的証人でもあります。

展示名 企画展「堺の技と美 工芸を彩るレッド&ブルー
主催 堺市博物館
会期 令和7年5月20日(火曜)~7月13日(日曜)
開館時間 午前9時30分~午後5時15分(入館は午後4時30分まで)
観覧料 一般 200円(160円)/高校・大学生 100円(70円)/小・中学生 50円(30円)
※( )内は20人以上の団体料金
※堺市在住・在学の小中学生は無料
※堺市在住の65歳以上の方、障害のある方は無料(要証明書)
休館日 月曜日

「堺の技と美 工芸を彩るレッド&ブルー」工芸文化と国際交流・まとめ

  • 湊焼は江戸時代初期に京都の楽焼陶工が堺で始めた独自の陶芸
  • 海老形向付は赤い色彩を活かしたおめでたい席用の食器
  • ベンガラ・辰砂・鉛丹が日本の代表的な赤色顔料
  • 材料によって赤色の色合いが大きく異なる
  • 茜・紅花・蘇芳が植物由来の赤色染料として使用
  • 南蛮貿易でコチニールなど新しい色材が伝来
  • 明治時代に化学合成染料で赤色表現が拡大
  • 赤色は魔除けや生命力の象徴として日本文化で重視
  • 青花磁器は中国明時代後期の白地に藍で絵付けした磁器
  • 堺の17世紀初頭遺跡から同様の器が出土
  • 青花磁器は国際交易を物語る歴史的証人