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2025.05.28

源平合戦から太平記まで─兵庫県立歴史博物館で楽しむ中世合戦図の傑作選

華やかな装束に身を包んだ武者たちが激突する合戦図は、江戸時代の人々にとって歴史や物語を感じる作品でした。兵庫県立歴史博物館で開催される「いくさ物語の絵画―瀬戸内の名品と収蔵コレクション―」では、源平合戦から戦国時代まで、中世の戦いを描いた江戸時代前期の優品が一堂に会します。瀬戸内海沿岸地域に所蔵される名品と館蔵コレクションを通じて、軍記物語と絵画芸術が織りなす豊かな世界をご覧いただけます。歴史・美術・文学の三分野が交差する作品群は、当時の人々の歴史観や芸術的感性を物語っています。

目次
  • 保元・平治の乱から源平合戦への道のり
  • 太平記が描く南北朝の動乱
  • 武家社会の需要に応えた芸術作品
  • 瀬戸内海という歴史の舞台
  • 2025年度開催の戦国・幕末・刀剣関連展

源平合戦から太平記まで─中世合戦図の傑作選【歴史ニュース】 イメージ図作成:junk-word.com
中世合戦図の美と技巧イメージ図 作成:junk-word.com

展示を楽しむための基礎知識

保元・平治の乱から源平合戦への道のり

保元の乱(1156年)は、後白河天皇と崇徳上皇による皇位継承争いで、源義朝と平清盛といった武家が政界へ進出するきっかけとなりました。その3年後の平治の乱(1159年)では、保元の乱で共に勝者となった源義朝と平清盛が対立し、平清盛を中心とする平氏が勝利しました。

これらの争いを経て、1180年から1185年にかけて「治承・寿永の乱」と呼ばれる源平合戦が勃発します。源頼朝が挙兵してから平氏が壇ノ浦で滅亡するまでの約6年間にわたる内乱でした。今回の展示作品に描かれた戦いの多くは、この激動の時代を背景としています。

太平記が描く南北朝の動乱

『太平記』は後醍醐天皇が親政を始めた頃(1318年)から、細川頼之が管領に就任するまでを描いた全40巻の軍記物語で、一般に南北朝時代とされる1336年から1392年の動乱を中心に描いています。南北朝時代は、鎌倉時代と室町時代に挟まれた時期であり、天皇が2つに分かれていた史上唯一とも言える特殊な時代でした。

『太平記』では、たたりや災いをもたらす「怨霊」が登場します。これは、南北朝時代に敗者が怨霊となって勝者に仇をもたらすと恐れられていたと考えられています。展示される太平記関連の絵画作品では、楠木正成の最期の舞台となった湊川の戦いなどが描かれており、この時代の複雑な政治情勢と人間模様を視覚的に理解することができます。

ここがポイント!

今回の展示作品は史実の記録ではなく、軍記物語という文学作品を視覚化したものです。『平家物語』『太平記』『保元物語』『平治物語』といった軍記物語の基本的な流れを知っておくと、絵画に描かれた場面をより深く楽しむことができます。

江戸時代に花開いた合戦図の魅力

武家社会の需要に応えた芸術作品

今回展示される合戦図の多くは江戸時代前期(17世紀)に制作されたものです。この時期に合戦図制作が盛んになった背景には、武家社会の特殊な事情がありました。徳川幕府が成立し、戦乱の世が終わりを告げると、武士たちは実際の戦場での活躍の機会を失いました。しかし武士としてのアイデンティティを保持する意味もあり、過去の英雄的な戦いへの関心が高まったと考えられています。

特に大名層は、自らの家系や先祖の武功を顕彰する意味でも合戦図を求めました。展示作品の中でも川中島合戦図屏風(和歌山県立博物館蔵)は、その制作に軍学者が関与していたことが明らかになっており、当時の武家社会における合戦図の重要性を示しています。これらの作品は装飾品としてだけでなく、武士の教養や家系の誇りを示すアイテムとしても機能していました。

瀬戸内海という歴史の舞台

今回の展覧会で特に注目されるのは、瀬戸内海沿岸が源平合戦の重要な舞台となったことです。一の谷(現在の神戸市)や屋島(香川県)での戦いは『平家物語』でも名場面として語り継がれ、多くの合戦図の題材となりました。展示される源平合戦図屏風(愛媛・今治市河野美術館蔵)では、これらの戦いのエピソードが詳細に描き出されています。

また兵庫県立歴史博物館収蔵品からは、源頼朝挙兵直後の三浦半島での戦いを描いた珍しい屏風や、楠木正成と子息正行との別れの場面を描く屏風が展示されます。後者は江戸幕府が18世紀初頭に朝鮮国王へ贈った屏風との関連性が指摘されており、外交贈答品として用いられた合戦図の存在も知られています。これらの作品群は、瀬戸内地域の歴史的重要性と、その記憶が絵画芸術を通じて後世に伝えられてきたことを物語っています。

ここがポイント!

現在は後期展示(5月20日~6月15日)の期間中で、保元合戦図屏風(岡山県立美術館蔵)や源平合戦図屏風(愛媛・今治市河野美術館蔵)など後期限定の名品をご覧いただけます。

展示名 いくさ物語の絵画―瀬戸内の名品と収蔵コレクション―
主催 兵庫県立歴史博物館、神戸新聞社
会期 令和7年(2025)4月26日(土)~6月15日(日)44日間
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料 大人1200円、大学生950円、70歳以上600円、高校生以下無料
休館日 月曜日

2025年度開催の関連展示

2025年度は、戦国時代や幕末維新をテーマにした展示が全国各地で開催されています。兵庫県立歴史博物館の合戦図展示とあわせて巡ることで、日本の武士文化や歴史をより広く理解することができます。刀剣の展示も各地で行われており、合戦図に描かれた武器と、実際に使われた刀剣を比較して楽しむことができます。展示終了後も、図録などの関連資料を購入できる場合がありますので、興味のある方は各施設の公式WEBサイトをご確認ください。

2025年度開催の戦国・幕末・刀剣関連展

施設名 展示名 会期 概要
幕末維新ミュージアム「霊山歴史館」 生誕190年 土方歳三と戊辰戦争 2025年5月14日~9月15日 新選組副長・土方歳三の生誕190年を記念し、戊辰戦争での活躍と箱館戦争までの激動の人生を紹介
熱田神宮草薙館 西海道と南海道 2025年5月28日~6月16日(※年間スケジュール頁では6月23日までと案内。来館前に最新情報を要確認) 日本刀の持つ美しさや我が国特有の伝統文化、美意識を地域の名刀を通じて紹介
大阪市立美術館 日本国宝展 2025年4月26日~6月15日 関西万博記念特別展。国宝の刀剣8振を含む貴重な文化財を一堂に展示
京都国立博物館 日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡― 2025年4月19日~6月15日 武士が台頭した中世から近世にかけての文化交流と美術作品の変遷を紹介
大阪歴史博物館 日本刀1000年の軌跡 2025年4月4日~5月26日 全日本刀匠会50周年記念展。重要美術品太刀銘安綱(天光丸)など名刀を通じて日本刀の歴史を展示
桑名市博物館 春季企画展「刀剣眩耀(げんよう) -甦る桑名宗社の村正- 2025年3月7日~5月10日 三重県指定文化財《太刀 銘 村正》(桑名宗社蔵)を展示