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2026.10.19

東大の価値創造学部(カレッジオブデザイン)は何を学ぶ?AIが進化する今、デザインを学ぶ意味とは

東京大学が新たに「デザイン学部」を設けると聞いて、私は少し意外に感じました。Webデザインやグラフィックデザインは、生成AIの進化によって制作の仕事が変わりつつあり、将来の雇用への影響も懸念されています。そんな時代に、なぜデザイン分野へ進出するのでしょうか。

大学の教育方針を調べると、そこでいう「デザイン」は私が最初に想像したものとは違っていました。東京大学が2027年9月に開設を予定している価値創造学部(カレッジオブデザイン)では、幅広い専門知識とデザインの方法を組み合わせ、社会の問題を発見して解決策を生み出す人材を育てようとしています。

では、従来のデザインと何が違い、AI時代にデザイン思考を学ぶことにはどのような意味があるのでしょうか。新学部の授業内容から、AIによる仕事の変化、すべての授業を英語で行う理由、大学で5年間学ぶ価値まで掘り下げます。

-・- 目次 -・-
  • 東大の価値創造学部は一般的なデザインと何が違うのか
    • Webデザインやグラフィックデザインとは目的がどう違うのか
    • 東京大学は5年間で何を教えるのか
  • デザイン思考とは?課題を発見して解決する方法
    • デザイン力とデザイン思考は何が違うのか
    • デザイン思考では問題をどのように発見し、解決するのか
  • AIが進化する時代になぜデザイン思考を学ぶのか
    • 生成AIはWebデザインやグラフィックデザインの仕事をどう変えるのか
    • AIが答えを作れる時代、人間の課題発見力にはどんな価値があるのか
  • 価値創造学部はなぜすべての授業を英語で行うのか
    • 世界中から学生を集めるための全授業英語という方針
    • 創造力を育てるために全科目を英語で学ぶ必要があるのか
  • AI時代に必要なデザイン思考は社会人にも身につけられるのか
    • 社会人が日常の仕事から課題発見力を鍛える方法
    • 価値創造学部を新設する意義はどこにあるのか
  • 東大の価値創造学部とデザイン思考まとめ
学生たちが街の模型を囲み、交通や暮らしの仕組みを考える様子。東京大学の価値創造学部が重視する、社会の問題を発見し、異なる分野の知識を組み合わせて解決策を考える学びを表現したAI画像 作成:junk-word.com
学生たちが街の模型を囲み、交通や暮らしの仕組みを考える様子。東京大学の価値創造学部が重視する、社会の問題を発見し、異なる分野の知識を組み合わせて解決策を考える学びを表現したAI画像 作成:junk-word.com

東大の価値創造学部は一般的なデザインと何が違うのか

Webデザインやグラフィックデザインとは目的がどう違うのか

デザインという言葉から、ホームページのレイアウト、広告のポスター、企業のロゴ、商品の外観などを思い浮かべる人は多いでしょう。これらは私たちの生活に身近なデザインですが、東京大学が価値創造学部で扱うデザインは、製品やサービスから社会の仕組みまでを対象にしています。

Webデザイナーは情報を分かりやすく伝えるためにページの構成や配色、操作のしやすさなどを設計します。グラフィックデザイナーであれば、広告の目的や対象者に合わせて文字、写真、色彩を組み合わせ、伝えたい内容を視覚的に表現することが仕事になります。

これに対して、東京大学の価値創造学部では、社会にどのような問題が存在し、その問題を解決するために何を作り、どのような仕組みを整えるべきかという段階から考えます。環境、医療、経済、文化、技術などの知識を組み合わせ、解決策を実際の社会で試すことまで教育の対象にしています。

比較項目 Web・グラフィックデザイン 価値創造学部のデザイン
主な目的 情報伝達や使いやすさ、視覚表現を設計する 社会課題を発見し、解決策を構想・実現する
対象 Webサイト、広告、ロゴ、画面など 製品、サービス、社会の仕組みなど
使う知識 色彩、文字組み、情報設計、利用者調査など 工学、経済学、社会科学、デザイン方法論など
成果の例 Webサイト、広告、画面設計など 新しいサービス、事業、社会課題への解決策など

地方の商店街で買い物客が減っている場合、Webデザインの仕事では店舗情報を探しやすいホームページを制作したり、グラフィックデザインの仕事では商店街の魅力を伝える広告を考えたりします。

価値創造学部が目指す考え方では、まず買い物客が減った原因を調べます。地域の人口構成が変わったのか、交通手段が不足しているのか、営業時間が住民の生活に合っていないのか。調査の結果、広告よりも移動販売や商品配送の仕組みを整えるほうが効果的だと分かれば、経済や物流、情報技術などを組み合わせて解決策を考えます。

実際のWebデザインでも利用者調査や課題発見は行われており、両者には共通する考え方があります。違いは主に、取り組む問題の範囲と、解決策を作るために組み合わせる専門分野の広さにあります。

東京大学は5年間で何を教えるのか

東京大学が2027年9月に開設を予定している「UTokyo College of Design」は、学士課程と修士課程を連続した5年間で修了できる教育課程です。制度上、学士課程部分には「価値創造学部」という和名が使われますが、学生募集や教育課程の名称にはUTokyo College of Designを使用しています。

第1期生の募集人数は100人で、入学後は幅広い学問分野の基礎を学びながら、自分の関心に応じて専門知識を深めていきます。大学の公式カリキュラムでは、基礎学習から実践型のプロジェクト、学外での経験までを組み合わせた教育内容が公開されています。

UTokyo College of Designの5年間の学び

  1. STEP 1
    1年次:幅広い学問とデザインの基礎を学ぶ

    大学横断の基礎科目や8つのデザインワークショップを通じて、さまざまな学問分野とデザインの方法に触れます。

  2. STEP 2
    2~3年次:専門知識を組み合わせて社会課題に取り組む

    複数の学問分野から関心に合う科目を選び、デザインプロジェクトを通じて問題への解決策を検討します。

  3. STEP 3
    4年次:国内外で実践経験を積む

    企業や国際機関などで約半年間の長期インターンシップを経験し、学んだ知識を実社会の課題に応用します。グループによる集大成プロジェクトにも取り組みます。

  4. STEP 4
    5年次:自分で設定した問いを深める

    個人による集大成プロジェクトに取り組み、専門知識と実践経験を組み合わせて、新しい価値を具体的な形として示します。

特徴的なのは、1年次の「8 Track Design Series」です。ここでは「デザインとは何か」という問いを出発点に、デザインの原理や方法、倫理を学びます。社会課題の発見、批判的思考、チームでの協働、アイデアの表現などを通じて、2年次以降に取り組む実践的なプロジェクトの基礎を作ります。

2年次以降は「Interdisciplinary Perspectives」と呼ばれる科目群などを通じて、複数の専門分野を組み合わせて学びます。先端技術とAI、医療・健康とウェルビーイングといった分野に触れながら、自分の関心に合う問題を掘り下げられる構成です。

デザイン思考とは?課題を発見して解決する方法

デザイン力とデザイン思考は何が違うのか

ここまで説明してきた「デザイン」と関係する言葉に、デザイン力とデザイン思考があります。似たように使われることもありますが、それぞれ意味する範囲が異なります。

一般にデザイン力とは、目的に合ったものを考え、使いやすさや機能、見た目などを整えながら具体的な形にする能力を指します。Webデザインであれば、情報を整理する力、利用者が迷わず操作できる画面を設計する力、配色やレイアウトを考える力などが含まれます。

デザイン思考とは、利用者や社会の困りごとを調べ、解決すべき問題を明らかにしたうえで、複数のアイデアを試しながら改善する考え方です。

ネットショップで商品が売れないとします。デザイン力を使って商品写真やページのレイアウトを改善することはできますが、デザイン思考では、その前に利用者が購入をためらう原因を調べます。送料が分かりにくいのか、商品の説明が不足しているのか、支払い方法が限られているのかによって、必要な改善策が変わるためです。

つまり、デザイン思考はデザイン力を発揮する際にも役立つ方法の一つであり、Web制作、商品開発、行政サービス、医療、経営など、幅広い仕事に応用できます。

このような考え方は、生成AIが普及する前から企業経営でも重視されてきました。経済産業省は2018年に「デザイン経営」宣言を公表し、2019年には、デザインを基軸として事業課題を創造的に解決する「高度デザイン人材」の育成ガイドラインをまとめています。

デザイン思考では問題をどのように発見し、解決するのか

デザイン思考を具体的に理解するために参考になるのが、英国のDesign Councilが2004年に公表した「ダブルダイヤモンド」というモデルです。問題を調べる段階と解決策を考える段階を、それぞれ広げてから絞り込む流れとして整理したもので、企業や行政などでも使われています。

このモデルでは、問題解決を「発見」「定義」「開発」「提供」の4段階に分けます。東京大学独自の授業手順ではありませんが、デザイン思考がどのように進むのかを理解するための代表的な方法です。

  1. 発見(Discover):利用者や関係者から話を聞き、何が問題になっているのかを幅広く調べる。
  2. 定義(Define):集めた情報を整理し、解決すべき問題を明確にする。
  3. 開発(Develop):複数の解決策を考え、試作品などを使って検討する。
  4. 提供(Deliver):有効な解決策を選び、検証や改善を重ねながら実用化する。

ある自治体の窓口で住民の待ち時間が長くなっているケースを考えてみましょう。

窓口の混雑を解消するよう指示された担当者は、最初に予約アプリの導入を考えるかもしれません。ところが、住民への聞き取りや窓口の観察を行うと、来庁者の多くが手続きに必要な書類を知らず、何度も職員に質問していることが分かったとします。さらに、窓口に来ている人の中には、そもそも自宅から手続きできる人が含まれているかもしれません。

この段階で問題を「予約できる仕組みがないこと」と決めつけてしまうと、アプリを導入しても根本的な改善には結び付かないでしょう。調査結果を整理して「手続きに必要な情報が事前に伝わっていない」「来庁しなくても済む手続きがある」と問題を定義すれば、解決策の方向が変わります。

そこで、必要書類を案内するWebページ、来庁前に相談できる仕組み、オンライン申請、窓口での案内方法の変更など、複数の改善策を考えます。試験的に一部の手続きへ導入し、職員の負担や住民の待ち時間、利用者の満足度を調べて、効果の高い方法を採用するという流れです。

この例で注目したいのは、最初に思いついた予約アプリが、調査によって別の解決策に変わったことです。デザイン思考では、与えられた問題をすぐに解決するよりも、最初に設定された問題そのものを調べ直すことを重視します。

また、ダブルダイヤモンドは4段階を一度通過したら完成する仕組みでもありません。試作品を使って初めて別の問題が分かれば、調査や問題の定義に戻り、改善を繰り返します。

Design Councilの公式解説では、問題を調べ、解決すべき課題を定義し、複数の案を検討して実用化するまでの流れが紹介されています。この方法を知ることで、解決策を思いつく前に何を調べ、何を決めるべきなのかが具体的になります。

AIが進化する時代になぜデザイン思考を学ぶのか

生成AIはWebデザインやグラフィックデザインの仕事をどう変えるのか

生成AIの進化によって、デザインの制作現場では大きな変化が起きています。以前はデザイナーが時間をかけて作っていた画像やレイアウト案をAIで短時間に生成できるようになり、Webサイトについても、文章で指示することでページの構成やHTML、CSSなどのコードを作成できるようになりました。

飲食店の広告を制作する場合、商品写真を使った複数のレイアウト案やキャッチコピーの候補をAIで作成できます。Web制作でも、店舗の業種、対象とする利用者、必要なページ構成などを指定すれば、最初のデザイン案やプログラムを生成し、それを人間が修正する方法が考えられます。

制作方法の変化は、デザイン関連職の将来予測にも表れています。世界経済フォーラム(WEF)が2025年に公表した「Future of Jobs Report 2025」では、2030年までに減少率が高いと予測される職業の上位10職種に続く位置に、グラフィックデザイナーが挙げられました。2023年版では緩やかな成長が見込まれていましたが、2025年版では、AI・情報処理技術の進歩やデジタル化の拡大が雇用減少の要因として挙げられています。

また、国際労働機関(ILO)とポーランドの国立研究機関NASKが2025年に公表した共同研究では、約3万の業務項目をもとに、職業ごとに生成AIの影響を受ける度合いを分析しています。研究では、生成AIによって仕事が完全に代替されるよりも、業務内容が変化することが主な影響になると指摘しています。

Webデザイナーの仕事では、画像の加工、ページのコーディング、レイアウト案の作成などにAIを活用できます。これに対して、顧客がどのような目的でサイトを作るのか、利用者が何に困っているのか、予算や運営体制に合ったサイトにするにはどうすればよいかを考える際には、顧客との対話や現場の情報が必要になります。

個人事業主がホームページを作りたいと相談してきた場合、AIは業種に合うデザイン案を生成できますが、その事業者が新規顧客を増やしたいのか、既存顧客へ情報を届けたいのかによって、必要なページ構成や掲載内容は変わります。見た目の完成度が高くても、事業の目的に合っていなければ期待する成果には結び付きません。

AIが答えを作れる時代、人間の課題発見力にはどんな価値があるのか

生成AIは、与えられた質問に答えるほか、問題の原因を推測したり、複数の解決策を提案したりすることもできます。大量の情報を整理し、さまざまな分野の知識を組み合わせる能力が高まっているため、これまで人間が担当していたアイデア出しや企画の一部もAIを使って進められるようになりました。

それでも、現実の問題を解決するには、AIが作った答えと実際の状況が合っているかを調べる作業が必要です。AIは入力された情報をもとに提案を作るため、情報が不足していたり、最初の問題設定が間違っていたりすると、その前提に沿った解決策を提示することがあります。

会社の売上が減少している原因をAIに尋ねると、広告の改善、価格の見直し、新しい顧客層の開拓などが提案されるかもしれません。ところが、実際には商品の納期が長くなり、顧客が競合企業へ移っていたとしたら、広告を増やす前に供給体制を改善するほうが効果的でしょう。

このような場合、人間が担当する仕事として、顧客への聞き取り、販売記録の分析、現場の作業状況の調査などがあります。AIにも調査項目を考えさせたり、集めた情報を分析させたりできますが、解決策を採用する企業は、費用や人員、顧客への影響も含めて実行方法を決めることになります。

AIを使って新しいサービスを考える場合には、解決すべき問題に加えて、誰に利益があり、誰に負担が生じるのかという点も関係します。行政手続きを完全にオンライン化すると、職員の作業負担を減らせても、スマートフォンやパソコンを使うことが難しい住民への対応が必要になる場合があります。

AI時代の課題発見力は、AIが提案した答えを選ぶ能力に加えて、その答えの前提となる問題を現場の情報から確かめ、必要なら問題設定を変更する能力とも考えられます。

東京大学の価値創造学部が重視している学問分野を横断する教育や実践型のプロジェクトも、こうした問題に取り組む方法の一つです。技術的に実現できること、経済的に続けられること、利用者にとって使いやすいこと、社会的に受け入れられることを同時に考えるには、複数の専門知識と関係者との協力が求められます。

AIが作業を速く進められるようになったことで、解決策を試して改善する機会も増えています。人間が現場の情報を集め、AIを使って案を具体化し、実際の利用者に試してもらうという組み合わせは、デザイン思考を仕事に応用する方法として考えられます。

価値創造学部はなぜすべての授業を英語で行うのか

世界中から学生を集めるための全授業英語という方針

東京大学の価値創造学部には、もう一つ特徴的な教育方針があります。それは、すべての授業を英語で行うことです。東京大学は日本国内だけでなく、世界中からさまざまな背景を持つ学生を受け入れ、国際的な学習環境を作ることを目指しています。

東京大学の公式FAQでは、異なる文化や経験を持つ学生と教員が集まり、対話や共同作業を通じて学ぶことを教育上の特徴として挙げています。初年次には学生全員が寮で生活する計画もあり、授業以外の場でも互いの考え方や経験に触れる環境を整えようとしています。

英語を共通言語にすれば、日本語を学んでいない留学生も授業に参加しやすくなり、国籍や出身地域の異なる学生が同じ教室で議論できます。世界各国の環境問題や経済問題などを扱う際にも、異なる社会で育った学生の経験を持ち寄ることが期待されています。

こうした教育方針に合わせて、2027年度の入学者選抜では英語力も求められます。選抜方式には大学入学共通テストを利用するRoute Aと、国際的な試験・資格などを利用するRoute Bがあり、志願者は原則として指定された英語能力検定試験の結果を提出します。Route Bには、一定期間英語で教育を受けた人への提出免除制度も設けられています。

大学が公表する2027年度入学者選抜の概要では、学習能力や創造的思考力とともに、英語力、コミュニケーション能力、自主性、協調性などが求める人物像に含まれています。

2026年10月15日から始まった第1期生の出願受付は、11月5日まで行われる予定です。募集人数はRoute Aが50人、Route Bが50人となっています。

創造力を育てるために全科目を英語で学ぶ必要があるのか

世界中から学生を集めるという目的を考えれば、授業を英語で行う理由は理解できます。それでも、社会課題を発見し、創造的な解決策を考える能力を育てるために、すべての科目を英語にすることが最も効果的なのかという疑問は残ります。

日本語なら複雑な社会問題について詳しく説明できる学生でも、英語での議論には時間がかかることがあります。経済や法律、哲学といった分野では、言葉の細かな意味の違いが議論に影響するため、専門知識の理解と外国語による表現を同時に学ぶことになります。

入学時から英語力を求める制度では、それまでにどのような英語教育を受けてきたかも関係します。海外生活や英語による教育の経験がある学生と、国内の一般的な高校で学んできた学生では、英語を使って議論する経験に差が生じることもあるでしょう。

国際的な環境で学ぶ経験には、異なる文化や社会制度を知り、自分が当然だと思っていた前提を見直せるという利点があります。日本で暮らしていると気付きにくい問題を海外の学生が指摘したり、海外の社会制度を参考に新しい解決策を考えたりする機会も期待できます。

日本国内の地域課題に取り組む場面では、日本語による調査や住民との対話も必要になります。高齢化が進む地域で移動手段を考えるなら、実際に暮らしている住民から日常生活の困りごとを聞き、その地域の交通事情や行政制度を調べなければなりません。

こうした問題を考えると、英語は国際的な協働を進めるための共通言語であり、日本語は国内の現場を深く調べるための言語として、それぞれ役割があります。東京大学が目指す国際性と課題発見力を両立させる教育においては、学生がどの言語で現場調査を行い、その成果をどう授業へ持ち帰るのかという点も関係してきます。

全授業英語という方針が教育にどのような効果をもたらすのかは、学生が学び始めてからの授業運営やプロジェクトの成果を通じて明らかになっていくでしょう。

AI時代に必要なデザイン思考は社会人にも身につけられるのか

社会人が日常の仕事から課題発見力を鍛える方法

東京大学の価値創造学部では、大学の幅広い専門知識を学びながら、長期インターンシップや共同プロジェクトを通じてデザインの方法を実践します。社会人の場合は、日常の仕事で起きている問題を調べ、小さな改善を繰り返すことからデザイン思考を学べます。

会社のホームページからの問い合わせが少ないとします。最初にAIへ「問い合わせが増えるデザインを作って」と指示すれば、ページの改善案はいくつも得られるでしょう。そこで制作に進む前に、アクセス解析や利用者への聞き取りなどを行い、どこに問題があるのかを調べます。

訪問者が少ないのであれば検索流入や広告の問題が考えられます。アクセスが十分にある場合は、サービス内容の説明、料金の分かりにくさ、問い合わせフォームの使いにくさなどを調べる必要があります。問題の場所によって、改善すべき内容は変わるわけです。

原因の候補が見つかったら、AIを使って改善案を作り、実際のホームページへ反映します。その後、問い合わせ数やページの利用状況を比較し、期待した効果が得られたかを調べます。改善の結果から新たな問題が分かれば、再び調査へ戻るという方法です。

こうした取り組みは、Web制作以外の仕事にも応用できます。小売店なら来店客の行動、飲食店なら注文や配膳の流れ、事務職なら社内の手続きなど、普段の仕事で感じている不便を調べることが出発点になります。

異なる立場の人に話を聞くことで、自分だけでは思いつかなかった原因に気付くこともあります。顧客、現場の担当者、管理職などが同じ問題をどう考えているかを比較し、その結果をAIで整理したり、改善案を検討したりすることもできます。

大学では体系的な学習と専門家による指導を受けながら経験を積みますが、社会人には実際の顧客や業務に接する機会があります。自分の仕事の中で問題を発見し、解決策を試し、結果を検証する経験を積むことが、デザイン思考を身につける一つの方法です。

価値創造学部を新設する意義はどこにあるのか

教育内容を調べていくうちに、別の疑問が生まれました。社会の問題を発見し、異なる分野の知識を組み合わせて解決するという教育は、従来の工学部や経済学部、情報系の学部でも取り組んできたことではないでしょうか。新しい学部を設けることで、何が変わるのでしょう。

新学部の設置には、これまで専門分野ごとに分かれていた教育を結び付け、学生が社会の問題に取り組む機会を増やせるという利点があります。高齢者の移動手段を改善しようとする場合、交通技術の知識、地域の人口構成、行政の制度、事業を継続するための費用などを考えなければなりません。異なる専門分野の学生や教員が協力する仕組みを大学が用意することには、教育上の意義があると思います。

その反面、幅広い分野を学ぶことで、一つひとつの専門知識を十分に深められるのかという懸念もあります。AIを使った医療サービスを考える場合、利用者の困りごとを理解する能力に加えて、医療の専門知識や情報の安全性を確保する技術が必要です。多くの分野に触れる教育と、一つの分野を深く研究する教育を、5年間でどのように両立させるのかが問われます。

現在は、オンライン講座や書籍、AIを使って、大学に通わなくてもさまざまな知識を学べるようになりました。社会人なら、日々の仕事で問題を発見し、改善策を試す経験も積めます。AIが情報収集や分析、試作品の制作まで支援できる時代に、大学で5年間学ぶ価値はどこにあるのでしょうか。

大学には、専門家から継続的に指導を受け、異なる分野の学生と議論しながら研究に取り組める環境があります。東京大学が予定している長期インターンシップや集大成プロジェクトでは、学生が学んだ知識を実際の社会問題に応用し、その成果を検証する経験も積めます。

私は、価値創造学部を新設する意義は、デザイン思考を教えること自体よりも、専門知識を持つ人々が協力し、現実の問題に取り組める教育環境を5年間かけて作れるかどうかにあると考えます。

学生が地域の交通問題に取り組む場合、新しいサービスを提案して終わるのと、自治体や企業と協力して試験運用まで進め、利用者の生活の変化まで調べるのとでは、学習成果に大きな違いがあります。優れたアイデアを考えたことだけでなく、その案を支える技術や制度を理解し、関係者と協力して実行できたかという点まで評価してほしいと思います。

全授業を英語で行う方針についても同様です。海外の学生と英語で議論できる環境を整えることは価値がありますが、それが多様な意見を生かした研究や、国内外の社会課題への具体的な取り組みに結び付いているかが大切でしょう。教育の成果を考える際には、英語で学んだという経験に加えて、その環境から何を生み出したのかにも注目しています。

今後、東京大学が育成を目指す人材は、どのような研究や活動を行い、社会でどんな役割を果たすのでしょうか。新学部の評価は、卒業生の就職先や新しい教育課程の名称だけでなく、学生が身につけた専門性と、実際に生み出した成果によって決まると考えています。

東大の価値創造学部とデザイン思考まとめ

  • 価値創造学部は2027年9月開設予定
  • 学士・修士を含む5年一貫教育
  • 第1期生の募集人数は100人
  • 社会課題の発見と解決を重視
  • 幅広い学問とデザインの方法を学ぶ
  • 4年次に約半年の長期インターンシップ
  • デザイン思考は問題解決の方法
  • 課題の発見・定義・開発・提供を行う
  • 人間には現場調査と成果の検証が求められる
  • 価値創造学部は全授業を英語で行う
  • 国際的な学生の協働を目指している
  • 社会人も仕事からデザイン思考を学べる
  • 新学部の評価は学生が身につけた専門性と生み出した成果によって決まる

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