AIを導入する企業が増えるなか、そこで働く人が担う役割も変わり始めています。AIを活用するには、ツールの操作、使う仕事の選定、社内データやシステムとの接続、実際の仕事の流れへの組み込みまで、幅広い対応が求められます。
では、これからAIエージェントを学ぶ人は、何から身につければよいのでしょうか。現在のFDE求人には、プログラミングやAIの知識、業務の理解、評価、セキュリティ、現場とのコミュニケーションなど、さまざまな能力が挙げられています。
Anthropicの人材育成やOpenAI、Googleなどの求人を手がかりに、AI時代に必要なスキルと、これからの学び方を考えます。
- AI時代に必要なスキルは「AIを使える」だけでは足りない
- 企業ではAIを業務に組み込める人材が不足している
- OpenAIやGoogleも日本でFDEを採用している
- AIエージェントを今から学んでも間に合うのか
- AIエージェント未経験でも学ぶ余地はある
- FDEへの転職は経験ゼロからすぐ狙う仕事ではない
- 企業のAI導入で実際に求められているスキル
- 業務のどこにAIを使うかを決める力
- AIエージェントを作り、外部のデータやツールにつなぐ力
- 試作品を本番で使えるシステムへ変える力
- AIの結果を評価して改善する力
- セキュリティと人間の確認を設計する力
- 現場の人と一緒に導入を進める力
- AIエージェントのスキルは何から身につければよいのか
- まず自分の仕事でAIエージェントを使ってみる
- 次に小さなAIエージェントを一つ作る
- API、RAG、MCPへ少しずつ広げる
- 「動く」から「会社で使える」へ進む
- 自分で作ったものを説明できる形に残す
- プログラミング経験がない人は何から始めればいいのか
- 自分の業務知識とAIを組み合わせる
- 必要になったところからコードとAPIを学ぶ
- AI時代に学び続けるならツール名より身につけたいもの

AI時代に必要なスキルは「AIを使える」だけでは足りない
企業ではAIを業務に組み込める人材が不足している
企業がAIを導入するときは、ChatGPTやClaudeを操作する力、AIを使う業務を選ぶ力、社内のデータやシステムと接続して仕事の流れへ組み込む力が必要です。
Anthropicは2026年10月2日、Claude Frontier Academyを開始しました。1億ドルを投じ、2027年末までに1万人のFrontier Deployed Engineerを育成する計画です。
対象となるのは、ソフトウェア開発の基礎力を持ち、LLMを使った開発経験があるエンジニアです。参加者は企業から推薦を受け、研修後に自社で担当するClaudeの具体的なプロジェクトを持って参加します。研修内容には、ユースケースの選定、セキュリティレビュー、実装、社内への引き継ぎなどが含まれます。
日本でも人材が不足しています。IPAのDX動向2026では、「現場の知見と基礎的AI知識を持ち、自社へのAI導入を推進できる従業員」について、回答企業1,782社のうち69.6%が「不足している」と答えました。
OpenAIやGoogleも日本でFDEを採用している
企業のAI導入を担う仕事として、日本でもFDEの求人が確認できます。
Anthropicが育成するFDEはFrontier Deployed Engineerです。これに対してOpenAI、Google、SoftBank、Sakana AIなどはForward Deployed Engineerという名称を使っています。同じFDEという略称でも正式名称は異なります。
名称は異なりますが、役割には共通する部分があります。顧客や自社の現場へ入り、業務上の課題を調べ、AIを使った仕組みを設計し、試作品から本番環境まで導入する仕事です。
| 企業・プログラム | 名称 | 主な役割 |
|---|---|---|
| Anthropic(Claude Frontier Academy) | Frontier Deployed Engineer | 所属企業でClaude導入を主導 |
| OpenAI | Forward Deployed Engineer | 顧客と本番AIシステムを構築 |
| Google Cloud | Forward Deployed Engineer | 企業向け生成AIを設計・実装 |
| SoftBank(SB OAI Japanへ出向) | Forward Deployed Engineer | AIを企業の実業務へ導入 |
| Sakana AI | Forward Deployed Engineer | 顧客課題をAIで解決 |
Claude Frontier AcademyのFDEは、参加企業が自社のエンジニアを推薦する仕組みです。参加者は研修後、自分の所属組織へ戻り、実際のClaude導入プロジェクトを担当する形です。
AIエージェントを今から学んでも間に合うのか
AIエージェント未経験でも学ぶ余地はある
AnthropicのFrontier Deployed Engineer Residencyでは、AIエージェントの構築経験そのものより、ソフトウェア開発の基礎力やLLMを使った開発経験が参加条件として重視されています。研修や自社でのプロジェクトを通じて、AIエージェントの構築や導入を学ぶ仕組みです。
対象となるのは、ソフトウェアエンジニアとしての基礎力を持ち、LLMを使ってシステムを作った経験や、周囲のAI活用を支援した経験がある人です。
AIエージェントを作った経験がなくても、ソフトウェア開発やLLM活用の経験があれば、そこからAIエージェントの技術を身につけていくことができます。
FDEへの転職は経験ゼロからすぐ狙う仕事ではない
現在の日本向けFDE求人を見ると、ソフトウェア開発やAIシステムの実務経験を条件とする募集が中心です。
OpenAIの東京FDEは、顧客対応を含むエンジニアリングまたは技術導入で5年以上の経験を挙げています。PythonやJavaScriptなどで本番品質のコードを書けること、LLMや生成AIを使ったシステムを構築または導入した経験も求められます。
SoftBankがSB OAI Japan向けに募集しているFDEも、5年以上のソフトウェアエンジニアリングまたは技術導入経験、本番品質のコード、クラウド環境、LLMを利用したアプリケーションの構築・導入経験などが必須条件です。
Google Cloudの東京FDEでは、Pythonと機械学習関連技術の経験を5年以上求めています。条件には、本番品質のAIシステム、クラウド、RAG、外部ツールとの連携なども含まれます。
これから学ぶ人の最初の目標は、AIを使って一つの業務を改善し、その仕組みを自分で説明できるようになることです。
企業のAI導入には、FDEのほかにも、社内の情報システム担当者、Webやシステムの開発者、業務改善担当者、営業、マーケティング、人事、経理など、現場の仕事を理解している人が関わる場面があります。
AIエージェントの学習は、現在の仕事でAIを使い、業務を変えていくことにも生かせます。
企業のAI導入で実際に求められているスキル
業務のどこにAIを使うかを決める力
AIエージェントの導入は、「何かAIを使おう」から始めるより、現在の業務を調べるところから始めたほうが具体的です。
例えば、一つの仕事について、誰が何を受け取り、どの情報を確認し、何を判断し、どのシステムへ入力し、最後に誰が確認しているのかを分解します。その中から、時間がかかっている部分、同じ作業を繰り返している部分、情報を探す時間が長い部分を探します。
AnthropicのFDE研修も、企業へのAI導入を想定した訓練の中にユースケースの選定を含めています。業務改善へつなげるには、AIを使う場所を選ぶ力も必要です。
企業のAI導入では、モデルの性能を知る力と同じくらい、「この仕事のどこを変えれば成果が出るのか」を考える力が求められます。
AIエージェントを作り、外部のデータやツールにつなぐ力
AIエージェントは、目的に応じて必要な情報を集め、ツールを選び、複数の処理を進めるように設計できます。
企業導入を技術面から担当するなら、LLMの使い方、API、データベース、RAG、ツール連携、エージェント設計などの知識が必要です。
RAGは、社内文書など必要な情報を検索してAIへ渡し、その情報を使って回答させる仕組みです。MCPは、AIアプリケーションと外部のデータやツールを接続するための共通規格を指します。
現在のGoogle CloudやSoftBankのFDE求人にも、RAGや外部ツールとの連携、エージェント設計などが仕事内容や応募条件として含まれます。
試作品を本番で使えるシステムへ変える力
個人で試すAIエージェントなら、数回うまく動けば十分な場合があります。企業では多くの社員が繰り返し使うため、要求される水準は変わります。
社員ごとのアクセス権限をどうするのか、どのデータをAIへ渡してよいのか、処理に失敗したときどう復旧するのか、既存の顧客管理や社内システムとどう接続するのか。企業で使うには、こうした設計も加わります。
OpenAIのFDEは、最初のプロトタイプから安定した本番環境まで技術導入を担当します。SoftBankも、プロトタイプ構築から本番環境への展開、クラウドやオンプレミス環境への実装までを業務として挙げています。
企業のAI導入を担う人材に求められるのは、「AIで動くものを作る力」と「継続して使えるシステムにする力」の両方です。
AIの結果を評価して改善する力
生成AIは、同じ仕組みでも入力内容によって結果が変わります。企業で利用する場合、AIが期待した仕事をどの程度できているのかを継続して測る仕組みが必要です。
こうした評価はEval(evaluation)と呼ばれます。例えば、正しい情報を取得できた割合、必要なツールを正しく選んだ割合、処理に失敗したケース、回答にかかる時間、1回あたりのコストなどが確認対象です。
OpenAIのFDE求人ではeval-driven feedback、SoftBankではモデル評価に基づく改善や評価設計、Google Cloudでは精度や安全性、処理時間などを測る評価基盤が業務に含まれています。
AIエージェントを作ったあと、失敗したケースを集めて改善する経験も企業導入を想定した学習につながります。
セキュリティと人間の確認を設計する力
AIエージェントと外部ツールの連携が可能になると、できることが増えますが、同時に、誤った処理を実行したときの影響も大きくなります。
情報を検索して回答する処理と、顧客データを書き換える処理では、必要な管理が違います。メール送信、契約処理、支払い、データ削除などでは、AIが実行する前に人間の承認を入れる設計も考えられます。
誰がどの情報へアクセスできるのか、AIがどこまで実行できるのか、どの操作で人間へ戻すのか。こうした範囲を決めることも、企業向けAIエージェントの設計の一部です。
現場の人と一緒に導入を進める力
FDEの求人を読むと、プログラミング能力と並んで繰り返し登場するのが、顧客や業務担当者と仕事を進める能力です。
OpenAIのFDEは顧客のエンジニアや各分野の担当者と協働し、ニーズを理解しながら導入を進めます。Sakana AIも、顧客のビジネス、既存システム、制約を理解したうえで解決方法を設計する役割です。
企業では、技術的に優れたAIエージェントを作る力と、現場の作業に合わせる力の両方が必要です。担当者から現在の仕事を聞き、困っていることを整理し、試作品を見てもらい、改善を繰り返します。
今回確認したFDE求人に共通するのは、AI、ソフトウェア、業務知識、コミュニケーションを組み合わせる力です。
AIエージェントのスキルは何から身につければよいのか
まず自分の仕事でAIエージェントを使ってみる
これから学ぶなら、まず自分が普段行っている作業の一部をAIへ任せるところから始めます。そこで使い方をつかんだあと、複雑なAIシステムの構築へ進みます。
複数の資料を調べて比較する、ファイルを整理する、データを集計する、文章やコードを修正する、調査結果を決めた形式にまとめるといった仕事です。
ここでは、AIへの指示の出し方、どの仕事をAIへ任せるのか、必要な情報は何か、結果をどう確認するのか、どの段階で人間が判断するのかまで考えます。
Anthropicが公開しているAI Fluency Frameworkでは、人がAIを使うための能力を4つに整理しています。
- Delegation:人とAIのどちらに何を任せるか決める
- Description:目的や求める結果をAIへ明確に伝える
- Discernment:AIの出力が正しいか、役立つかを評価する
- Diligence:AIを使った仕事に責任を持ち、適切に扱う
プログラミングを始める前でも、この4つは自分の仕事でAIを使いながら練習できます。人間が担当する部分とAIへ任せる部分を分け、出力を確認しながら仕事の流れを作るところから始めます。
次に小さなAIエージェントを一つ作る
AIエージェントの仕組みを理解する近道は、実際に一つ作ってみることです。
最初の題材には、社内文書から必要な情報を探す、問い合わせ内容を分類する、特定の条件でWeb上の情報を調査してまとめるなど、一つの目的に絞ったものが向いています。
OpenAIのAIエージェント構築ガイドでも、まず一つのエージェントで構築し、必要になった段階で複数のエージェントへ広げていく方法を示しています。
モデル、ツール、指示という基本構造を理解し、AIが外部の情報を取得したり、処理を実行したりする流れを一度自分で作ってみると、その後に学ぶ技術の役割も理解しやすくなるでしょう。
API、RAG、MCPへ少しずつ広げる
一つのAIエージェントを作ったら、次の段階は外部との接続です。
- APIを使って外部サービスを操作する
- RAGで社内文書やデータを検索する
- MCPでAIとツールを接続する
- 複数の処理を順番に実行する
- 必要に応じて別のエージェントへ仕事を渡す
AnthropicのClaude Code: Foundationsでも、最初のタスクから始め、プロジェクトのルール設定、Skills、プラグイン、サブエージェント、MCPによる外部システム接続へ発展させる流れを説明しています。
「動く」から「会社で使える」へ進む
AIエージェントが動くようになったら、次に考えたいのが複数人での利用です。
誰が利用するのか、どの情報へアクセスできるのか、間違えたとき誰が確認するのか、処理の履歴を残すのか、費用はいくらかかるのか。こうした条件を加えることで、個人の実験から企業での利用を想定した設計へ変わっていきます。
問い合わせ対応のAIエージェントなら、すべてを自動回答させるより、判断できない案件を人間へ渡す仕組みを作ります。社内文書を扱う場合は、利用者ごとのアクセス権限も設計の対象です。
さらに、10件から100件、1000件へ処理量を増やしたときに、どのような失敗が起きるのかを確認します。精度、処理時間、API料金などを記録すれば、Evalや運用コストの考え方も学べます。
自分で作ったものを説明できる形に残す
企業導入を担う仕事へ近づくなら、完成した画面と、そこへ至る過程を残しておくと役立ちます。
- 元の業務にはどんな問題があったか
- なぜAIを使うことにしたか
- AIへ任せた作業はどこか
- 人間が確認する作業はどこか
- どのデータやツールと接続したか
- どんな失敗が起きたか
- どのように評価し改善したか
- 導入前後で何が変わったか
この記録があれば、「AIエージェントを使えます」よりも、自分が何を考えて何を作ったのかを具体的に説明できます。
FDEの仕事では、技術力、顧客の課題を特定する力、システムを設計して本番導入まで進める経験が評価されています。学習段階でも、小さなテーマで同じ流れを経験することは可能です。
プログラミング経験がない人は何から始めればいいのか
自分の業務知識とAIを組み合わせる
プログラミング経験がない人にも、すでに持っている強みがあります。それが現在の仕事についての知識です。
営業なら商談から契約まで、経理なら請求や入金確認、Web担当者ならサイト更新やアクセス解析、人事なら採用や社内手続きなど、実際の仕事をしてきた人ほど業務の細かな流れや条件を知っています。
企業へAIを導入するときは、「AIで何ができるか」という知識と、「現在の仕事はどう動いているか」という業務理解が必要です。Sakana AIのFDEも、顧客のビジネスやシステム、制約を深く理解することを役割に含めています。
自分の仕事の中からAIで改善できそうな作業を一つ選び、現在の手順を書き出してみるだけでも、企業AI導入で使われる考え方の練習になります。
必要になったところからコードとAPIを学ぶ
企業向けAIシステムを技術面まで担当するなら、プログラミングやAPIの知識も必要です。
AIエージェントを作りながら、必要になった技術を順番に学べます。「外部サービスからデータを取得したい」「取得したデータを加工したい」「複数の処理を自動化したい」といった課題が出たときに、その解決に必要な技術へ進みます。
そこで学ぶ対象になるのが、変数、条件分岐、関数、JSON、HTTP、API、Git、データベースといった基礎です。
コードを書く作業はAIの支援を受けられるようになっています。企業のシステムを扱うには、生成されたコードが何をしているのか、エラーが起きたときどこを確認するのか、データを安全に扱えているのかを理解する力が必要です。
AI時代に学び続けるならツール名より身につけたいもの
AIエージェントを取り巻く技術は短期間で変わります。現在使われているモデル、サービス、開発フレームワークも、数年後には変わっている可能性があります。
今回確認した各社のFDE求人を横断して見ると、製品名が違っても共通する仕事があります。
- 現場の業務を理解する
- 解決する課題を決める
- AIへ任せる範囲を設計する
- データやツールと接続する
- 本番で動くシステムを作る
- 結果を測って改善する
- 安全に利用できるよう管理する
- 現場の人と一緒に定着させる
AI時代に必要なスキルを考えるとき、特定のAIサービスを操作できることだけを目標にすると、技術が変わるたびに学び直すことになります。
今回確認したFDE求人では、AIを仕事の仕組みに変える力が共通して求められています。自分の仕事で使い、小さな仕組みを作り、外部ツールとつなぎ、結果を評価し、本番利用まで考える。こうした経験を積み重ねることが、企業のAI導入に関わる力につながります。
今から始める人の最初の一歩は、自分がよく知る一つの仕事をAIでどう変えられるか考え、実際に試すことです。
AI時代に必要なスキルまとめ
- 企業ではAI導入を進める人材が不足
- 日本でもFDEの求人が確認できる
- 今からAIエージェントを学ぶ余地はある
- 今回確認したFDE求人は実務経験者向け
- 業務理解もAI導入に必要な能力
- APIやRAGなどの実装力も求められる
- 試作品から本番運用まで考える
- AIの結果をEvalで評価する
- セキュリティと人の確認を設計する
- 現場の人と一緒に導入を進める力も必要
- まず自分の仕事でAIを使ってみる
- 次に小さなAIエージェントを作る
- 必要な技術を段階的に広げる
- 業務知識はAI導入にも生かせる
- AIを仕事の仕組みにする力を磨く

