中国では、AIで生成した人物が演じるAIドラマが短期間で大量に作られるようになりました。技術の進歩だけを見ると、人間の俳優がAI俳優へ置き換わっていく未来を想像する人もいるでしょう。
ところが、ドラマは作れば見てもらえる商品ではありません。中国の視聴者調査では、AI映像を見た経験がある人は多い一方、表情や人物の見分けやすさ、セリフに違和感を覚える回答が目立ちます。
AI俳優に必要なのは、人間そっくりの映像を作ることだけなのでしょうか。それとも「この俳優をまた見たい」と思われることなのでしょうか。中国のAIドラマをめぐる調査から、「作れる」と「見たい」の間にある差を考えます。
- AI俳優は視聴者から選ばれているのか
- 75.6%がAI映像を見た一方、65.1%は「時々違和感」
- AI俳優のどこに視聴者は違和感を持っているのか
- 表情、見た目、セリフが現在の三つの弱点
- リアルな顔を作れても「感情が伝わる演技」とは別
- AI俳優にも人間の俳優のような「ファン」はつくのか
- 視聴者は架空のキャラクターにも愛着を持つ
- バーチャルな人物にも愛着は生まれるが、人間との差も確認されている
- AIドラマは大量に作られても、再生数は一部の作品に集中
- 半年で22万作品以上、再生1億回超は約0.5%
- 制作コストが下がるほど「誰を見たいか」の価値が上がるのではないか
- AI俳優は「出演者」から「好きな人物」になれるか
- AI俳優の次の課題は「また見たい」と思わせること
- 人間の俳優と違う形の人気俳優が生まれる可能性もある
AI俳優は視聴者から選ばれているのか
75.6%がAI映像を見た一方、65.1%は「時々違和感」
中国ではAI俳優やAIドラマを見る人がどこまで広がっているのでしょうか。
中国青年報社社会調査センターが問巻網と共同で1334人を対象に実施した2026年の調査では、75.6%がAIを使った映像作品を見たことがあると回答しました。
一方、AI映像を見たことがある回答者の評価を見ると、26.5%は「期待を上回り、違和感がない」と高く評価しましたが、65.1%は「普通。見られるが特別驚くほどではなく、時々違和感がある」という回答でした。8.4%は作品へ入り込みにくいと答えています。
AI映像は、この調査の回答者の多くが一度は接したことのあるコンテンツになっています。一方で、視聴経験の多さがそのまま高い評価につながっている状況でもありません。
調査対象は、1990年代生まれが約半数を占め、2000年代生まれも20.4%含まれています。居住地域では、北京・上海・広州・深圳などの大都市に相当する「一線都市」と、それに次ぐ主要都市である「二線都市」の回答者が合わせて7割を超えました。中国全体の人口構成をそのまま反映した調査ではないため、この記事では、AI映像を見た回答者が何を感じているのかを知る資料として扱います。
AI俳優のどこに視聴者は違和感を持っているのか
表情、見た目、セリフが現在の三つの弱点
先ほどの調査では、89.2%の回答者が現在のAIによる演技に、作品へ入り込みにくくなるような違和感や不自然さを感じると答えました。
具体的な回答で多かったのは、次の三つです。
- 表情がうつろで、実感のある感情が伝わりにくい 49.4%
- 人物の見た目が不自然で、区別しにくい 48.6%
- セリフが硬く、声の調子に変化が少ない 42.3%
さらに39.0%は、ストーリーが不自然で内容に論理性や深みを感じにくい点を挙げました。
AI映像は短期間で大きく進歩し、顔や服装、背景などが実写のように見える作品も増えています。それでも視聴者は、画面がきれいかどうかだけでドラマを評価しているわけではないことが調査結果から分かります。
リアルな顔を作れても「感情が伝わる演技」とは別
ドラマでは、悲しい場面だから涙を流せば感情が伝わるとは限りません。
視線を外すタイミング、相手の言葉を聞いた直後の表情、声の強弱、話し始めるまでの間など、小さな変化が重なって人物の感情として受け取られます。AI俳優にも、映像として自然に見えることに加え、表情や声の変化から人物の感情が伝わる演技が求められます。
動画生成AIの人物表現は今後も更新されていくでしょう。現在の調査では、顔のリアルさが向上した一方で、表情や声にはまだ違和感を覚える視聴者が多いことが分かります。
AI俳優にも人間の俳優のような「ファン」はつくのか
視聴者は架空のキャラクターにも愛着を持つ
AI俳優を考えるとき、「実在しない人物にファンがつくのか」という疑問があります。
人が愛着を持つ相手は、実在する人物だけではありません。テレビドラマや映画、アニメなどの登場人物に親しみを感じ、その人物の行動や物語を追い続ける現象は以前から研究されています。
こうしたメディア上の人物に対して、一方向ながら親しい関係にあるような感覚を持つことを「パラソーシャル関係」と呼びます。
2024年に学術誌「Poetics」に掲載された研究では、架空の登場人物との関係が失われたと感じたときにも視聴者は感情的な反応を示し、その人物との結び付きが強い人ほど影響が大きいという結果が報告されました。
人は物語の中にしか存在しない人物にも愛着を持ちます。AI俳優についても、実在するかどうかより、視聴者がその人物に親しみや魅力を感じるかが、ファン形成を考えるうえで重要な要素になります。
バーチャルな人物にも愛着は生まれるが、人間との差も確認されている
AIやCGで作られた人物と人間の関係については、バーチャルインフルエンサーの研究が参考になります。
2026年に発表されたバーチャルインフルエンサーの研究では、2022年に韓国語話者から得た232件の有効回答を分析し、バーチャルな人物とのパラソーシャル関係と、その人物のページを見る、人に薦める、継続して見るといった行動意向との間に、直接・間接の関連が示されました。
一方、人間とバーチャルインフルエンサーを比較した2026年の研究では、女性と分類された利用者によるSNS上の約7万8000件のコメントを分析した結果、人間のインフルエンサーの方が、真正性(本物らしさ)、パラソーシャル・インタラクション(親しい相手のように感じる反応)、社会的な存在感に対応する文章上の指標で高い傾向が確認されました。
これらはSNS上のバーチャルインフルエンサーを対象とした研究で、AI俳優が出演するドラマを直接調査したものではありません。AI俳優でも人が親しさを感じる可能性を考える参考にはなりますが、人間の俳優と同じような強いファンとの関係が生まれるかは、別に検証する余地があります。
AI俳優が長期的なファンを獲得し、人間の人気俳優と同じように「この人が出演するなら見たい」と作品選びに影響する存在になれるのか。今回確認した範囲では、この問いに直接答える研究はまだ十分に蓄積していません。
AIドラマは大量に作られても、再生数は一部の作品に集中
半年で22万作品以上、再生1億回超は約0.5%
DataEye研究院がDataEye-ADXのデータをもとに公表した2026年上半期の集計では、新たに公開されたAIを使ったショートドラマや、アニメ・漫画風のショートドラマは22万1900作品を超えました。
そのうち再生回数が1億回を超えた作品は1055作品で、全体の約0.5%です。再生1000万回を超えた作品まで広げても約1万2000作品、5.8%でした。
半年で22万作品以上が公開されても、再生1億回を超えたのは約0.5%です。AIによって作品数を増やせるようになった結果、今度は大量の作品の中から選ばれる競争が起きています。
この数値は中国政府の統計ではなく、DataEyeの調査サービスが収集した業界データです。また、「AI劇・漫劇」には実写風のAIドラマだけでなく、AIを使ったアニメ・漫画系の映像作品も含まれます。
それでも、生成技術を利用できる制作側が増えれば、きれいな映像を作れることだけでは他の作品との差を作りにくくなるという市場の変化は読み取れます。
制作コストが下がるほど「誰を見たいか」の価値が上がるのではないか
私は、AIによって映像制作の費用と時間が下がるほど、「好きな俳優が出演しているから、その作品を見る」という視聴者の選び方が、これまで以上に大きな意味を持つのではないかと考えます。
これまでドラマや映画は、多くの人員と資金を用意できること自体が参入障壁の一つでした。AI映像制作が普及すれば、その壁は低くなります。
作品数が増えた先で不足するのは、制作能力ではなく視聴者の時間です。
同じ時間に何百、何千という作品が公開されれば、視聴者には見る作品を選ぶ理由が必要です。好きな俳優が出演している、前の作品が面白かった、このキャラクターの続きが見たいといった理由は、その選択を支える力になります。
人間の人気俳優が持っている価値は演技力だけではありません。過去の出演作品や本人の経歴、インタビュー、SNSでの発信、長い時間をかけて築いたファンとの関係も含まれます。
AI俳優は「出演者」から「好きな人物」になれるか
AI俳優の次の課題は「また見たい」と思わせること
AI俳優を作り、動かし、セリフを話させるところまで技術は進みました。大量のAI劇・漫劇が公開される市場もすでに形成されています。
その一方で、中国青年報の調査では表情や人物の見分けやすさ、セリフへの違和感が挙げられ、DataEyeのデータでは再生1億回を超えた作品は約0.5%でした。
ここから先の課題は、生成した人物に名前を覚えてもらい、性格や物語に愛着を持ってもらい、次の作品でも「また見たい」と思ってもらえるかどうかです。
AI俳優が人間の俳優に似ているかという比較だけでは、この変化を捉えきれません。人気俳優とは、映像の中で演技する人であると同時に、視聴者が継続して関心を持つ人物でもあります。
人間の俳優と違う形の人気俳優が生まれる可能性もある
ここからは推測です。AI俳優は、人間の俳優を忠実に再現する方向とは別の発展をする可能性もあります。
同じAI俳優の外見や性格を作品ごとに維持できれば、ドラマ以外の場所にも活動を広げられます。SNSで発信したり、視聴者と会話したり、別の作品へ同じ人物として登場したりする形も考えられます。
実際に中国では、ドラマの中だけでなくSNSでも活動するAI俳優が登場しています。財聯社は2026年7月31日、AIショートドラマ「被裁掉的女孩」の再生回数が2.3億回に達し、AIで作られた男女の主人公がそれぞれ個人のSNSアカウントを持ち、フォロワーが合計52万人を超えたと報じました。主人公はSNSで料理や運動などの日常を発信しており、作品の外でも一人の人物として見てもらう試みが始まっています。
バーチャルインフルエンサーの研究では、人工的に作られた人物に対してもパラソーシャルな関係が形成されることが確認されました。AI俳優でも同じような関係が育てば、「人間の代わりに演技する存在」から、「その人物自体を見たいと思われる存在」へ変わる余地があります。
AI俳優の競争は、人間そっくりに作れるかという段階から、視聴者が名前を覚え、「次もこの俳優を見たい」と思う存在を作れるかという段階へ移っていくのではないか。私は、そこまで到達したときに初めて、AI俳優が人間の俳優とは違う形で人気を得る可能性が見えてくると考えます。
AI俳優とAIドラマまとめ
- 調査回答者の75.6%がAI映像を視聴
- 視聴経験者の65.1%は時々違和感
- 89.2%がAI演技に違和感を回答
- 表情・見た目・セリフが主な弱点
- 架空の人物にも愛着は形成される
- バーチャル人物にも関係性は生まれる
- 女性コメント分析では人間側の指標が高い
- 上半期のAI劇・漫劇は22.19万作品超
- 再生1億回超は1055作品
- AI俳優の次の壁は「また見たい」

