経済産業省が楽天グループの大規模な生成AI開発を支援する方針を固めました。楽天は「楽天経済圏」と呼ばれるグローバルで20億以上の利用者を抱えるサービス群で得られるデータを活用し、7000億パラメータ規模の基盤モデル開発に挑戦します。これは経産省が推進するGENIACプロジェクトの一環で、野村総合研究所やリコーなど計24社の開発支援も決定。国産生成AIの本格的な社会実装に向けた国家戦略の重要な一歩となります。
- GENIACプロジェクトとは?
- パラメータ数の謎を解く - 7000億個の意味
- 世界のAI開発競争における日本の立ち位置
- よくある質問
GENIACプロジェクトが描く国産AI戦略
GENIACプロジェクトとは?
GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)は、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主導する、日本の生成AI開発力強化と社会実装促進を目的とした国家プロジェクトです。2024年2月に開始されました。
GENIACの主な取り組みは、AI基盤モデルのための計算資源の提供支援、データと生成AIの利活用に向けた実証支援、関係者のネットワーキングや知見共有を促進するイベントなどです。
そもそも、なぜこのような国家プロジェクトが必要なのか。その背景には、生成AIが私たちの暮らしや産業のあり方を根本から変える可能性を持つ一方で、その開発には膨大な計算資源と高度な技術、人材、資金が求められるという現実があります。欧米や中国ではすでに国家レベルでの支援が進む中、日本が今後もこの分野で確かな地位を築いていくためには、国が前面に立って支援の枠組みを整えることが不可欠です。
GENIACプロジェクトは、そうした課題に正面から向き合い、日本国内における生成AIの基盤モデル開発と社会実装を総合的に後押しする取り組みです。国際競争力のあるAI技術を育てることを目指し、日本の未来を支える重要な一歩となっています。
パラメータ数の謎を解く - 7000億個の意味
GENIACプロジェクトに関する新たな動きが報じられました。経済産業省は、楽天グループが進める次世代型の生成AI開発を支援する方針を固めたのです。楽天は、8月から大規模言語モデル(LLM)の開発に着手する計画で、国内最大級となる7,000億パラメータ規模のモデル構築を目指しています。パラメータとは、AIが学習に用いる重みづけの数値であり、数が大きいほどより高度な処理能力を持つAIが実現できるとされています。
楽天はこれまで、比較的軽量な15億パラメータの基盤モデルを公開してきましたが、今回の計画では大規模なAIモデルの開発に本格的に踏み出す形となります。その背景には、楽天市場や楽天モバイル、楽天銀行といったサービス群から構成される「楽天経済圏」の存在があります。楽天は、国内外で延べ20億以上の利用者を抱えており、こうした巨大な経済圏で蓄積されるデータを活用して、ユーザー一人ひとりに最適な提案ができるAIエージェントの実現を目指しています。
経済産業省は、楽天のこの取り組みが生成AIの社会実装を加速させ、GENIACプロジェクトの目的にも合致すると判断しました。今回の支援対象は楽天グループにとどまらず、野村総合研究所やリコー、さらに医療・建築系のスタートアップなどを含む計24社に広がっており、2023年度の補正予算として確保された290億円の中から、各社の開発規模や計画に応じて支援額が決定される予定です。
世界のAI開発競争における日本の立ち位置
現在の世界AI開発状況を見ると、米国の優位性は明確ですが、中国の追い上げも目覚ましいものがあります。スタンフォード大学が発表した最新のAI Index Report 2025によると、2024年に米国ベースの機関が40の注目すべきAIモデルを開発したのに対し、中国は15、ヨーロッパは3にとどまっています。投資面でも、2024年の米国のAI民間投資は1091億ドルに達し、中国の93億ドルの約12倍、英国の45億ドルの約24倍という圧倒的な規模を示しています。
しかし、中国の技術力向上は急速です。同レポートによると、主要なベンチマークテストであるMMLUやHumanEvalにおいて、米中のAIモデルの性能差は2023年には二桁の差がありましたが、2024年にはほぼ同等のレベルまで縮まっています。また、AI関連の論文発表数と特許数では中国が依然として世界をリードしている状況です。このような世界的なAI競争が激化する中で、今回の楽天AI支援は日本の競争力強化にとって重要な取り組みといえるでしょう。
楽天経済圏のデータ活用は、規模だけの追求ではありません。ECサイト、通信、金融など多様なサービスを横断するデータを学習させることで、ユーザー一人ひとりに最適化された提案を行う「AIエージェント」の開発を目指しているのです。これは従来の汎用AIとは一線を画すアプローチといえます。
よくある質問
7000億パラメータのAIって、普通の人にも使えるサービスになるのでしょうか?
楽天経済圏のサービスを通じて一般ユーザーも利用できるようになる可能性があります。既存の楽天市場や楽天モバイル、楽天銀行などのサービスに組み込まれる形で提供されると考えられますが、具体的なサービス内容については今後の発表を待つ必要があります。高性能なAIが身近なサービスに組み込まれることで、より便利なサービスが期待されます。
GENIACプロジェクトの支援を受けるには、どのような条件が必要ですか?
GENIACの支援対象は、生成AIの基盤モデル開発に取り組む企業や研究機関です。大企業だけでなく、スタートアップや大学も対象となっており、今回は24社が新たに採択されました。第四期のスケジュールや公募方針、対象分野・募集テーマに関する情報、新たな応募受付の告知などは、現時点では公式に案内されていません。今後の支援については、経済産業省やNEDOの公式サイトで最新情報を確認してください。
楽天のAIが完成すると、ChatGPTのような海外AIを使わなくても済むようになりますか?
可能性は十分にあります。楽天AIは日本語データを豊富に学習し、日本の文化や商習慣に特化したAIになると予想されます。海外AIでは理解が難しい日本特有の表現や、楽天経済圏のデータを活用した個人最適化など、独自の強みを持つ可能性があります。ただし、汎用性では海外の大規模AIと競合するため、用途に応じて使い分けることになると考えられます。
国産AIの開発が遅れると、どのような問題が起こる可能性がありますか?
主な懸念は「技術的な依存」と「データセキュリティ」の問題です。海外AIに頼り続けると、重要な判断や業務が他国の技術に依存することになります。また、企業や個人のデータが海外のAIサービスを通じて流出するリスクも考えられます。世界のAI開発競争については本文でも詳しく説明していますが、技術主権の確保という観点から、国産AI開発の重要性が指摘されています。
楽天のAI開発にはどれくらいの期間がかかる見込みですか?
7000億パラメータ規模のモデル開発は非常に大規模なプロジェクトのため、数年単位の開発期間が必要と予想されます。ただし、具体的なスケジュールや開発の進捗については、楽天からの公式発表を待つ必要があります。GENIACプロジェクトの支援により、計算資源やコミュニティの活用が可能になることで、開発の効率化が期待されています。
GENIACプロジェクト楽天支援のまとめ
- 経産省が楽天の7000億パラメータAI開発を支援決定
- GENIACプロジェクトで24社の開発を新たに支援
- 楽天は8月から大規模言語モデル開発に着手
- 楽天経済圏20億利用者のデータを活用予定
- パラメータ数が多いほど高性能なAI実現が可能
- 従来の15億から7000億パラメータへ大幅拡大
- ユーザー個人最適化AIエージェント開発が目標
- 2023年度補正予算290億円から支援額を決定
- 国産AI開発による国際競争力強化が急務