ブラインドサッカーや脱出ゲームなど、普段の仕事とはかけ離れた体験が、社員研修として取り入れられています。参加者同士で協力したり、課題を解決したりすることで、コミュニケーション能力やチームワークを高めることが目的です。
こうした体験型研修は、一般的な座学よりも楽しく学べそうですが、実際の仕事にどれほど役立つのでしょうか。研修中は勉強になったと感じても、職場に戻れば以前と同じ働き方に戻ってしまうことも考えられます。
体験型研修で期待できる効果を具体的な事例から紹介し、研修で学んだことが仕事に生かされる条件や、職場のコミュニケーションを改善する方法について、研究結果を交えながら考えていきます。
- 体験型研修は本当に仕事に役立つのか
- 体験型研修にはどのような効果があるのか
- ブラインドサッカー研修で学べるコミュニケーションとチームワーク
- 研修で学んだことは、なぜ仕事に生かされないことがあるのか
- 研修転移とは?学んだことが職場で生かされる条件
- 研修の効果はどのように測定されるのか
- 研修を受けても職場のコミュニケーションが改善しない理由
- コミュニケーション不足は社員個人と職場環境のどちらに原因があるのか
- 職場のコミュニケーションは改善できるのか
- 体験型研修に参加する価値はあるのか
- 研修の価値は何を学び、仕事にどう生かすかで変わる

体験型研修は本当に仕事に役立つのか
体験型研修にはどのような効果があるのか
体験型研修とは、参加者が課題に取り組み、その経験を振り返りながら仕事に必要な知識や能力を学ぶ研修方法です。講師の説明を聞いて理解する座学に対し、体験型研修では参加者自身が行動し、ほかの人と協力したり、失敗した原因を考えたりする過程が学習の中心になります。
複数人で制限時間内に課題を解決する研修では、誰が指示を出すのか、どの情報を共有するのか、意見が分かれたときにどう対応するのかを、その場で考えなければなりません。最初はうまく協力できなくても、話し合いながら方法を変えることで、チームとしての行動にも変化が生まれます。
複数人で課題に取り組む体験型研修では、参加者が互いに意見を出し合い、うまくいかなければ方法を変えながら解決を目指します。その過程で、コミュニケーション能力や問題解決力、チームワークなどの向上が期待されます。
課題を終えた後は、なぜ達成できたのか、失敗した原因は何だったのかを振り返り、そこで気づいたことを日常業務のどのような場面で使えるのかまで考えます。研修中の経験を普段の仕事に結びつけるための作業です。
制度や業務手順など、順序立てて知識を身につける場合には座学が適しています。研修の目的によっては、講師の説明を聞いてから実際に課題に取り組み、理解を深めることもできます。
ブラインドサッカー研修で学べるコミュニケーションとチームワーク
体験型研修の一例が、日本ブラインドサッカー協会の企業・団体向けプログラム「OFF T!ME Biz(オフタイム ビズ)」です。ブラインドサッカーでは、アイマスクを着用した選手がボールの音や仲間の声を頼りにプレーするため、周囲の状況を言葉で伝え、互いに協力することが欠かせません。
同協会の公式サイトで紹介されている研修では、講習や選手によるデモンストレーション、ウォーミングアップに続き、参加者がコミュニケーションやチームワークを学ぶワークショップに取り組みます。最後には活動を振り返り、自分が何に気づき、何を学んだのかを言葉にして整理します。
視覚に頼れない状況では、普段何げなく使っている「あちらへ行ってください」「もう少し動いてください」といった指示が、相手に十分伝わらないことがあります。方向や距離、動作を具体的に説明する必要があり、伝える側も、相手がどのような情報を必要としているのかを考えなければなりません。
これは職場での指示にも通じます。上司が仕事の進め方を説明したつもりでも、部下が必要な情報を受け取れていなければ、認識の違いや作業のやり直しが発生します。また、説明を受ける側が疑問を伝えることも、意思疎通を成立させるうえで大切です。
日本ブラインドサッカー協会が2026年5月14日に公表した2025年度の研修実績によると、実施件数は111件、参加者は4,455人でした。前年度の89件、3,335人から増加しており、製造業や情報通信業、金融業など幅広い業種で導入されています。
こうした研修は、コミュニケーション能力に加えて、相手との信頼関係やチーム内での役割について考える機会にもなります。
研修で学んだことは、なぜ仕事に生かされないことがあるのか
研修転移とは?学んだことが職場で生かされる条件
研修中には積極的に発言し、課題を解決するために協力していた人でも、普段の職場に戻ると以前と同じ行動を続けることがあります。研修で学んだ内容を実際の仕事に応用し、その後も活用することは「研修転移」と呼ばれ、人材育成に関する研究でも扱われています。
研修で学んだことを職場で生かすには、内容を理解することに加え、実際の仕事で試す機会や、それを後押しする環境も関係します。どれほど有意義な研修でも、職場で新しい方法を使う機会がなければ、学んだ内容を実務で生かすのは難しくなります。
2010年に学術誌「Journal of Management」に掲載された研修転移に関する研究では、89件の実証研究を統合し、研修で学んだ内容が仕事で活用される条件を分析しました。その結果、受講者の意欲や認知能力、誠実性などの個人要因に加え、支援的な職場環境も研修転移と正の関連を持つことが報告されています。
研修で新しい営業方法を学んだ社員が、それを顧客への提案に取り入れようとしても、上司が従来の方法だけを求めていれば、実践する機会は限られてしまいます。
また、研修内容によって、仕事への応用の仕方も異なります。決められた操作手順を覚える研修なら、実際に同じ操作ができるかを比較的直接的に調べられますが、コミュニケーションやリーダーシップを学ぶ研修では、相手や状況に応じて行動を変えることが求められます。
研修で学んだことを仕事に生かすには、受講後に何を実践するのかを具体的に決めるとよいでしょう。コミュニケーション研修なら、会議で発言の少ない人にも意見を求めたり、仕事の指示が相手に伝わったかを確かめたりする方法があります。こうした行動を一定期間続け、実践できたかどうかを振り返ります。
その後の振り返りでは、実践できた回数だけでなく、何がうまくいき、どこに課題が残ったのかを確認します。研修中に一度経験した行動を、日々の仕事の中で繰り返し試し、必要に応じて改善していく流れです。
研修の効果はどのように測定されるのか
研修を受けた社員から「勉強になった」「参加してよかった」という感想が多く集まっても、それだけで仕事の成果まで評価できるのでしょうか。研修の効果を確かめるには、受講者の感想と、実際の行動や業務成果を分けて評価します。
研修の効果を評価する方法として、ドナルド・カークパトリックが提唱した4段階の評価モデルがあります。研修を受けた人の反応や学習の成果、職場での行動の変化、組織にもたらした結果を、それぞれ分けて評価するものです。
| 評価の観点 | 調べる内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 反応 | 参加者が研修をどう評価したか | 満足度や役立ちそうだという感想 |
| 学習 | 知識や技能を習得したか | 研修前後のテストや実技評価 |
| 行動 | 仕事で学んだことを実践したか | 説明方法や指示の出し方の変化 |
| 結果 | 組織が目指した成果を得られたか | 業務ミスの減少や生産性の改善 |
「学習」と「行動」の違いを、コミュニケーション研修で考えてみましょう。相手に分かりやすく指示を出す練習をする場合、研修前と研修後に同じ課題に取り組み、説明の仕方がどの程度改善したかを比較します。これは、研修によって必要な技能を身につけたかを調べる「学習」の評価です。
「行動」の評価では、研修を終えて職場に戻った社員が、相手に分かりやすく指示を出しているかを調べます。研修から一定期間が経過した後に、本人や上司への聞き取り、仕事中の行動記録などから確認します。研修中に適切な指示を出せるようになっても、実際の仕事で同じように行動しているかは別に確かめる必要があるからです。
「結果」の評価では、指示の出し方が変わったことで、職場の作業ミスや手戻りが減ったかを調べます。作業ミスの件数は仕事量によっても変わるため、研修前後の件数だけでなく、作業全体に占めるミスの割合も比較します。
研修を受けても職場のコミュニケーションが改善しない理由
コミュニケーション不足は社員個人と職場環境のどちらに原因があるのか
職場でコミュニケーションがうまくいかない場合、説明が苦手な社員や、相手の話を十分に聞かない社員など、個人の能力が問題になることがあります。説明の順番を整理したり、相手の理解に合わせて言葉を選んだりする能力は、研修で学ぶ対象になるでしょう。
社員が必要な能力を持っていても、職場の雰囲気や仕事の仕組みが原因で、意思疎通が難しくなることもあります。質問すると叱責される職場では、分からないことがあっても尋ねにくくなりますし、上司が仕事の目的や優先順位を説明しなければ、部下は限られた情報から判断しなければなりません。
職場環境との関係を考えるうえで参考になるのが、「心理的安全性」に関する研究です。心理的安全性とは、チームの中で質問したり、間違いを認めたり、異なる意見を述べたりする際に、対人関係上の不利益を過度に恐れずにいられる状態を指します。
ハーバード大学の研究者エイミー・エドモンドソンは、1999年に発表した心理的安全性とチームの学習行動に関する研究で、製造企業の51チームを調査しました。その結果、心理的安全性が高いチームほど、周囲に助けを求めたり、意見を聞いたり、失敗について話し合ったりする学習行動が活発である傾向が報告されています。こうした学習行動がチームの成果と関係していることも示されました。
上司が部下の質問や意見を受け止め、失敗についても話し合える職場であれば、疑問や問題を抱え込まずに相談できます。問題が大きくなる前に情報を共有し、解決方法を考えながら仕事を進めることができるのです。
職場のコミュニケーションは改善できるのか
日常の指示や報告、会議の進め方を工夫することで、相手との認識の違いを減らし、職場のコミュニケーションを改善できます。
最初に取り組みやすいのが、指示を具体的に伝えることです。「なるべく早く資料を作ってください」と伝える代わりに、「明日の午前10時までに、売上の推移と課題をA4用紙2枚にまとめてください」と説明すれば、期限や作業内容が明確になります。
仕事を依頼された人も、分からない点があれば質問し、何をいつまでに仕上げるのかを確認します。作業の優先順位や完成した資料のイメージについても、依頼した人と認識を合わせておけば、作業を始めてから「思っていたものと違う」と言われる事態を減らせます。
また、会議や打ち合わせでは、決定事項と担当者、期限を最後に整理すると、誰が何をするのかが明確になります。会議の参加者全員が内容を理解したつもりでも、実際には異なる認識を持っていることがあるため、決まった内容を共有する方法を用意しておくとよいでしょう。
日常業務で取り組めるコミュニケーション改善
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STEP 1
指示の内容を具体的にする
目的、作業内容、期限、優先順位を相手に伝える。
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STEP 2
相手との認識をすり合わせる
疑問点を質問し、必要に応じて作業の進め方を確認する。
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STEP 3
決定事項を共有する
会議や打ち合わせの内容を記録し、担当者と期限を明確にする。
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STEP 4
仕事の進め方を振り返る
認識の違いや作業のやり直しが発生した原因を話し合い、次の仕事に反映する。
こうした取り組みは、新入社員だけでなく、管理職や経験の長い社員にも関係します。指示を出す側と受ける側の双方が、相手の状況を考えて必要な情報を伝えることで、職場全体の仕事の進め方を改善していけます。
体験型研修に参加する価値はあるのか
研修の価値は何を学び、仕事にどう生かすかで変わる
「研修は会社の自己満足ではないか」「忙しいのに、なぜ普段の仕事と関係のない課題をやらされるのか」。こうした不満は私にもよく分かります。以前、新人研修や営業研修を何度か受けましたが、始まる前は憂鬱で、参加する意味を疑問に思ったこともありました。
営業研修では本社での講習に加え、地方の営業所で実際に営業活動を行いました。1週間連続で契約を獲得しなければ研修を終えられない厳しい課題もあり、どうすれば契約につながるのかを考え、営業の方法を何度も試しました。目標を達成したときは大きな満足感があり、普段とは違う環境で働いたことも、気持ちを切り替える機会になりました。
研修で試した方法を所属する営業所に戻ってからも取り入れたところ、営業成績が上がり、半年ほど良い状態が続きました。その後は成績が停滞し、さらに伸ばすには別の工夫や努力が必要になったのです。研修は私の仕事の進め方を変えるきっかけになったものの、成果を伸ばし続ける難しさも感じました。
ブラインドサッカー研修と営業研修では活動内容が違いますが、普段とは異なる環境で課題に取り組み、試行錯誤を通じて学ぶ点には共通するものがあります。
その反面、「研修を受けても職場が変わらない」という批判にも理由があります。社員に協力の大切さを学ばせても、上司が部下の話を聞かず、仕事の進め方を改善しようとしなければ、研修での経験を生かすのは難しいでしょう。
社員研修を受けただけで仕事や職場が変わるわけではありません。企業は研修で学んだことを職場でどう生かすのか目標を決め、実践した結果を検証し、仕事の進め方を改善する仕組みを継続的に運用する必要があります。研修の目的は、社員を育て、働きやすく成果を出しやすい職場をつくることにあると私は考えます。
体験型研修の効果まとめ
- 体験型研修は課題解決を通じて学ぶ方法
- 座学とは異なる実践的な学びがある
- ブラインドサッカー研修は連携を重視
- 2025年度の実施件数は111件
- 研修転移は学びを仕事に生かすこと
- 受講者の意欲や職場環境が関係する
- 研修の効果は4つの観点から評価できる
- 満足度と業務成果は分けて調べる
- コミュニケーションには職場環境も影響
- 日常業務の指示や情報共有も改善できる
- 研修後の実践と振り返りが定着を支える

