國學院大學博物館の特別展「文永の役750年 Part2 絵詞に探るモンゴル襲来―『蒙古襲来絵詞』の世界―」展示図録を読み、内容と見どころをまとめました。『蒙古襲来絵詞』の成り立ちの概要から、菊池神社本と根岸家本の比較、時代とともに変化する「神風」の解釈や研究史の広がりまで、読後の感想とともに紹介します。
- 文永の役750年 特別展 Part2 絵詞に探るモンゴル襲来―『蒙古襲来絵詞』の世界―
- モンゴル襲来を迎え撃った鎌倉幕府第8代執権・北条時宗とその時代
- 図録の見どころ
- 竹崎季長が残した『蒙古襲来絵詞』の成り立ち
- 菊池神社本と根岸家本から読み解く模写の系統
- 時代とともに変化する「神風」の解釈
- 研究史の歩みとこれからの『蒙古襲来絵詞』
- 図録の詳細と読後の感想
- 図録情報
- 図録 目次
- 図録を読み終えて

文永の役750年 特別展 Part2 絵詞に探るモンゴル襲来―『蒙古襲来絵詞』の世界―
文字による解説を少なめに抑え、豊富な図版と資料を前面に打ち出した図録。菊池神社本と根岸家本という複数の模写本を並べて掲載しており、筆致や構成の違いを視覚的に見比べることができます。主要な解説には英語が併記されており、展示の復習だけでなく、絵詞の細部を自分の目でじっくり比較検証するための資料集として使い道が広い一冊です。
モンゴル襲来を迎え撃った鎌倉幕府第8代執権・北条時宗とその時代
図録の読み解きをさらに深めるための前提知識として、まずは未曾有の国難であったモンゴル襲来と、それを迎え撃った鎌倉幕府の防衛体制、執権・北条時宗の決断について押さえておきましょう。
13世紀後半、ユーラシア大陸の大半を支配下に収めたモンゴル帝国(元)は、日本に対して服属を求める国書を度々送りつけました。この対外危機に直面した当時の鎌倉幕府で対応の指揮を執ったのが、第8代執権の北条時宗です。
文永5年(1268)に18歳で第8代執権となった北条時宗は、モンゴルの国書が到来するなかで対外危機への対応にあたりました。
強大な帝国を相手に、幕府はどのように防衛体制を整えたのか。1274年の最初の襲来(文永の役)で元軍の集団戦法や火器に苦戦した幕府は、再度の侵攻に備えて具体的な対策に乗り出します。
九州の御家人たちを動員し、幕府は博多湾岸の今津から香椎浜まで約20キロメートルにわたって元寇防塁を築き、再度の来襲に備えました。
同時に幕府は、全国の寺社に対して敵国の降伏を祈る大規模な祈祷を命じました。神仏の加護を求める精神的な総動員と、防塁構築という物理的な軍事動員。この両輪によって国難を乗り切ろうとしたのが当時の状況です。
最前線に駆り出された九州の武士たちにとって、この戦いは自らの領地と一族の命運を懸けた死闘でした。命がけで戦った彼らの最大の関心事は、その働きに見合う恩賞を幕府から得ることです。
こうした切実な状況下で、自身の奮戦ぶりを幕府の有力者に証明しようとした一人の御家人の執念が、後世に残る歴史的資料を生み出す背景となりました。
図録の見どころ
竹崎季長が残した『蒙古襲来絵詞』の成り立ち
肥後国の御家人・竹崎季長が、モンゴル襲来での自身の戦闘状況と、戦功を認めてもらうため鎌倉へ赴いた経緯を記録した絵物語の全貌を扱っています。制作当初は「絵」と「詞(文章)」が時系列に沿って別々の状態でした。
絵を見ながら詞を読み聞かせることで、臨場感を演出する意図があったと考えられています。図録を通して、当時の武士が自らの功績をいかに生々しく後世に伝えようと工夫したか、その切実な目的意識を読み取ることができます。
菊池神社本と根岸家本から読み解く模写の系統
熊本県の菊池神社と埼玉県の根岸家にそれぞれ伝来した模写本を比較しています。
文政8年(1825)の第二次調巻時に細川藩絵師の福田太華が作成した模写本の一つとされる菊池神社本に対し、根岸家本は作成時期や作者が不明です。細川藩の調巻で新たに見出された「詞二」「絵二」を含むかどうかなど、系統ごとの違いを見極めていく観察軸が提示されています。
豊富に掲載された図版を見比べながら、複数存在する模写本の違いを自分の目で確認する体験を手元で味わえます。
時代とともに変化する「神風」の解釈
暴風雨によって元軍の船団が壊滅した事象が、時代を経てどのように語り継がれてきたのかを追っています。
弘安4年(1281)の暴風雨は、当時は神々や祈祷の力によるものと受け止められ、のちに神風と呼ばれるようになりました。神風という呼び方は、江戸時代後期や第二次世界大戦下にも見られ、昭和50年代にはコメディー漫画の忍法名にも使われています。
一つの気象現象が日本人の宗教観や思想にどのような影響を与え、再解釈されてきたのかを多角的な視点から学べます。
研究史の歩みとこれからの『蒙古襲来絵詞』
昭和初期から続く國學院大學での武具・装束の研究史を振り返りつつ、近年の研究者による模写本の分類案や、絵と詞の配列に関する新たな解釈を整理しています。
完成された過去の資料としてではなく、今なお新たな解釈や議論が展開されている現在進行形の研究対象として絵詞を捉え直す視点が提示されています。定番の歴史資料が最新の研究でどのように読み解かれているのか、その最前線に触れることが可能です。
図録の詳細と読後の感想
図録情報
| 図録名 | 文永の役750年 特別展 Part2 絵詞に探るモンゴル襲来―『蒙古襲来絵詞』の世界― |
|---|---|
| 発行 | 國學院大學博物館 |
| 発行日 | 2024年11月30日 |
| ページ数 | 70頁 |
| 価格 | 1,500円 |
図録 目次
図録を読み終えて
文字での解説は全体的に少なめに抑えられており、その分、図版や資料が豊富に収録されています。展示の主要なテーマである菊池神社本と根岸家本の違いを、掲載された大きな画像でじっくり見比べることができる作りです。また、主要な解説箇所には日本語の他に英語が併記されている点も特徴的です。
展示室のケース越しでは確認しきれなかった菊池神社本と根岸家本の細やかな違いを、手元でじっくりと比較検証できます。模写本ごとの筆致や構成の差異を再確認するためのビジュアル資料として、展示の記憶をより確かなものにしてくれます。
長い文章を読むのが苦手な方でも、豊富な図版を通して直感的に歴史の空気に触れることができます。英語の併記もあり、国宝『蒙古襲来絵詞』をめぐる模写本の違いを視覚的に楽しめる図録です。
おすすめしたいのは、次のような人です。
- 複数の『蒙古襲来絵詞』の模写本を並べて見比べてみたい人
- モンゴル襲来当時の武士の姿や武具、装備に関心がある人
- 日本語と英語の併記で歴史用語や解説を確認したい人

