國學院大學博物館で開催された特別展「文永の役750年 Part1 海底に眠るモンゴル襲来―水中考古学の世界―」の展示図録について、内容が気になる方へ。水中考古学という調査分野の概要から、モンゴル襲来の背景と博多・伊万里湾の攻防、鷹島海底遺跡の調査手法と引き揚げ遺物、国史跡「鷹島神崎遺跡」の保存管理まで、図録の見どころを読後の感想とともに紹介します。
- 文永の役750年 特別展 Part1 海底に眠るモンゴル襲来―水中考古学の世界―
- 海底に眠る歴史を解き明かす「水中考古学」とは
- 図録の見どころ
- モンゴル襲来の背景と博多・伊万里湾をめぐる攻防
- 鷹島海底遺跡における調査手法と引き揚げられた遺物
- 国史跡「鷹島神崎遺跡」の現状と今後の保存管理
- 図録の詳細と読後の感想
- 図録情報
- 図録 目次
- 図録を読み終えて

文永の役750年 特別展 Part1 海底に眠るモンゴル襲来―水中考古学の世界―
本図録は、元寇(モンゴル襲来)というテーマを海底からの引き揚げ遺物や現地調査の様子を中心にまとめた一冊です。主要な解説には日本語の他に英語が併記されているのが特徴で、文字による解説は控えめに抑えられ、視覚資料が豊富に収録されています。科学的手法を取り入れた歴史研究の事例集として調べ学習に活用できるほか、展示室で見た発掘のプロセスを自宅で視覚的に復習するための手引書となる構成です。
海底に眠る歴史を解き明かす「水中考古学」とは
図録の読み解きをさらに深めるための前提知識として、まずは「水中考古学」という分野ならではの特徴と、その具体的な調査方法を押さえておきましょう。
水中考古学とは、海・湖沼・河川などの水域に残る沈没船や水没遺構・遺物など、人類活動の痕跡を調査研究する考古学の一分野です。
水底に沈んだ遺物が砂や泥に覆われて酸素の少ない状態になると、微生物やフナクイムシの活動が抑えられ、木製の椗をはじめとする陸上では残りにくい有機質遺物が、良好な状態で見つかる場合があります。
広大な海から遺跡を探し出す「探査」の技術
広大な海の底、しかも泥の下に埋もれた遺跡を見つけるためには、まず地元の漁師などから「網に古い壺が引っかかった」といった情報を集め、大まかな海域を絞り込みます。その後、音波を用いた技術を活用します。
調査船から音波探査機を用いて海底の地形を画像化し、さらに地層探査機を使って海底面下に埋もれた船体や遺物の反応を探り当てます。図録の舞台となる伊万里湾の鷹島海底遺跡でも、この音波探査が元軍船の発見に大きな役割を果たしました。
海底の泥を取り除いて遺物を発掘する作業
遺跡の場所が特定できたら、潜水調査を行います。実際の水中の発掘では、金属の棒(プローブ)を水底に突き刺して遺物の有無や材質の感覚を確かめます。そして、遺物を覆っている泥や砂を取り除くために「エアリフト」と呼ばれる水中の掃除機のような機材を使います。これを使って遺物を傷つけないように慎重に泥を吸い上げ、遺物を発掘します。
水中で写真測量を行い3Dモデルを作成するなどして記録をとった後、引き揚げが難しい遺物は劣化を防ぐために「再び泥で埋め戻す」というのも水中考古学の重要な原則です。
このような調査のプロセスを知った上で図録の写真を見ると、海底から引き揚げられた遺物がいかに貴重な歴史の証人であるかがより具体的に理解できるはずです。
図録の見どころ
モンゴル襲来の背景と博多・伊万里湾をめぐる攻防
第2章では、1274年の文永の役と1281年の弘安の役からなる、二度のモンゴル襲来の概要を扱っています。
当時の国際貿易港であった博多を標的とした元軍と、それを迎え撃つ鎌倉幕府の武士たちによる攻防の経緯を整理。「神風」の伝承が生まれるなど、その後の日本社会に与えた影響や、東アジア全体を巻き込んだ歴史的背景が論点です。
図録を通読することで、鎌倉幕府軍と元・高麗連合軍の戦いの位置づけを改めて俯瞰できます。
鷹島海底遺跡における調査手法と引き揚げられた遺物
第3章と第4章は、伊万里湾で行われてきた水中考古学的調査の具体的な成果に焦点を当てています。
音波探査などを用いて海底地形と海底面下の堆積状況を把握し、元軍船や大型木製椗が埋もれている可能性の高い場所を絞り込んでいくプロセスが解説の中心になっています。軍船や関連遺物は谷地形に埋もれている可能性が高く、その深さは海底面下約1〜2メートルと示されています。試掘調査に至るまでの手順を追える構成です。
国史跡「鷹島神崎遺跡」の現状と今後の保存管理
第5章からおわりにかけては、発掘された遺跡と遺物をいかにして後世に残すかという課題を扱っています。
2012年に日本初の国史跡に指定された水中遺跡「鷹島神崎遺跡」における、鷹島1・2号沈没船の現地保存作業や引き揚げ遺物の保存処理が主な内容で、松浦市を中心とした遺跡の管理体制や、新たなまちづくりへの活用計画についても触れられています。
発掘後の文化財保護の難しさと、地域と連動した取り組みの現状を参照できる構成です。
図録の詳細と読後の感想
図録情報
| 図録名 | 文永の役750年 特別展 Part1 海底に眠るモンゴル襲来―水中考古学の世界― |
|---|---|
| 発行 | 國學院大學博物館 |
| 発行日 | 2024年9月21日 |
| ページ数 | 68頁 |
| 価格 | 1,500円 |
図録 目次
図録を読み終えて
元寇(モンゴル襲来)を主題とした図録自体が少なく、歴史資料として貴重な存在です。文字による解説は比較的少なめですが、海底からの引き揚げ遺物や現地調査の様子を伝える写真が豊富に掲載されています。日本語と並んで英語の解説が併記されているのも特徴の一つです。
展示室で目にした遺物の写真や現地調査の様子を、手元でじっくりと振り返ることができます。日本語と英語の解説文を読み比べることで、異なる言語表現からのアプローチも可能です。
文字量が抑えられ視覚的な資料が充実しているため、水中考古学の入門書として読み進めやすい内容です。元寇に関わる遺物がどのような状態で海底に眠り、いかにして調査されたのかを写真から追体験できます。
おすすめしたいのは、次のような人です。
- モンゴル襲来(元寇)の歴史に興味がある人
- 水中考古学の調査手法や発掘プロセスを知りたい人
- 文字解説よりも写真などの視覚資料を中心に調査の空気を感じたい人

