品川区立 品川歴史館の特別展「日本考古学は品川から始まった -大森貝塚と東京の貝塚-」展示図録を読み、内容と見どころをまとめました。大森貝塚とモース、発掘と報告の流れの概要から、その後の調査と顕彰の歩みや東京の貝塚から探る縄文時代まで、読後の感想とともに紹介します。
- 日本考古学は品川から始まった -大森貝塚と東京の貝塚-
- 大森貝塚とモース
- 図録の見どころ
- 日本考古学、品川に始まる -大森貝塚発掘-
- その後の大森貝塚 -調査と顕彰の歩み-
- 貝塚発掘時代 -考古学揺籃期の東京人類学会と遺物採集家-
- 東京の貝塚から探る縄文時代
- 図録情報
- 図録 目次
- 図録を読み終えて

日本考古学は品川から始まった -大森貝塚と東京の貝塚-
品川区立 品川歴史館で開催された特別展「日本考古学は品川から始まった -大森貝塚と東京の貝塚-」の図録を紹介します。大森貝塚を軸に、発見と発掘の経緯、その後の調査と顕彰の歩み、そして東京に点在する貝塚までを一冊でたどれる構成です。
写真や図版が多い一方で、要点は文章でもきちんと説明されています。展示の記録としてだけでなく、手元で参照しながら読み進められるタイプの図録です。
大森貝塚とモース
大森貝塚は、縄文時代後期から晩期にかけて形成された貝塚で、東京都品川区大井から大田区山王にかけて分布します。1877年(明治10年)にエドワード・S・モースが発見し、同年秋から発掘を実施しました。学術目的で行われた日本初の科学的発掘として位置づけられ、日本考古学の出発点として語られる遺跡です。
発掘が画期的だったのは、遺物を掘り出したことだけではありません。成果は1879年に英文の報告書(Shell Mounds of Omori)として刊行され、同年に日本語版も刊行されています。報告書には遺物図が多く収録され、モース自身が貝類図を作成し、日本人画家の木村静山が細密な図を担ったことも知られます。
このように、発掘成果を記録し、報告書としてまとめて共有可能な知識にした点が、大森貝塚の功績のひとつです。
本図録では、発見と発掘の進み方、出土品、そして発掘の記録がどのようにまとめられたのかを、出来事の流れとして追えるように構成されています。発掘前後の経緯や関係者の関わりも含めて整理できます。
一方で、大森貝塚と貝塚研究に焦点を当てた内容のため、モース個人の伝記的な情報は控えめです。モースそのものを深掘りしたい場合は、人物に特化した資料と組み合わせると読みやすくなります。
図録の見どころ
日本考古学、品川に始まる -大森貝塚発掘-
大森貝塚について、発見から発掘、報告、出土品、関係する記録や人物へと、順を追って学べる章です。知識が点で入っている人ほど、どこが節目だったのかが整理しやすくなります。
重要文化財に指定された出土品を含む資料が取り上げられ、何が根拠として重視されてきたのかも見えてきます。展示を見ていなくても、発掘史の流れを押さえる読み方ができます。
その後の大森貝塚 -調査と顕彰の歩み-
大森貝塚は、発掘後も調査と顕彰が積み重なって現在に伝えられてきました。この章では、モース没後に顕彰の記念碑が2つ建てられたことなどを背景に、発掘地点の捉え方が分かれ、所在地をめぐって混乱が生まれていった経緯が、写真や資料つきで整理されています。
あわせて、その後の調査や保存・顕彰活動がどのように進み、遺跡が遺跡庭園として整備・公開されるに至ったのかという流れも追えます。現地を訪ねる前に読んでおくと、記念碑や周辺の見方が変わり、見るポイントが増えます。
貝塚発掘時代 -考古学揺籃期の東京人類学会と遺物採集家-
明治から大正にかけて、貝塚の発掘や資料収集に関わった人々に焦点を当てる章です。坪井正五郎(つぼいしょうごろう)、鳥居龍蔵(とりいりゅうぞう)、関保之助(せきやすのすけ)、江見水蔭(えみすいいん)、上羽貞幸(うえばさだゆき)など、名前は知っていても関係性が整理しにくい人物が、貝塚というテーマでつながって見えてきます。
人物紹介に加えて、当時の調査の姿勢や学史の空気感も伝わってくるため、発掘史を人の動きとして読みたい人に向きます。弥生土器に関する説明が入る点も、縄文と弥生の境目を考える手がかりになります。
東京の貝塚から探る縄文時代
東京の貝塚といえば、やはり大森貝塚の印象が強いかもしれません。しかし本章では、都内に点在する数々の貝塚を取り上げ、縄文の暮らしそのものに迫る構成をとっています。
生活道具に装い、葬送や祀り。多様な切り口を通じ、遺物がかつての生活場面へと還っていくような感覚が生まれます。発掘調査当時の写真が豊富に掲載されている点も、見逃せない魅力の一つです。
巻末の東京の貝塚文献一覧には、848件の文献が掲載されています。読み終えたあとに深掘りしたくなったとき、この一覧が便利です。
図録情報
| 図録名 | 日本考古学は品川から始まった -大森貝塚と東京の貝塚- |
|---|---|
| 発行 | 品川区立 品川歴史館 |
| 発行日 | 初版2007年10月(紹介するのは2017年3月 第3版) |
| ページ数 | 117ページ |
図録 目次
図録を読み終えて
写真・図版を多く掲載しながら、大森貝塚に関する情報を丁寧に積み上げていく図録です。図版中心の冊子ではなく、重要な点は文章でも説明されているので、読み物としても満足感があります。
特に便利だと感じたのが、巻末の東京の貝塚遺跡地名表。都内の貝塚が75件掲載されていて、地名から調べる入口として使えます。さきほど紹介した東京の貝塚文献一覧とあわせて活用すると、気になった貝塚をさらに深掘りできます。
展示を観覧した人へ
会場で見た資料が、発見から発掘、報告、顕彰へとどうつながるのかを落ち着いて追い直せます。写真や資料を見返しながら、自分の中で時系列を組み直す用途に向きます。顕彰碑や遺跡庭園の話は、展示後に読むほど理解が深まります。
展示を観覧していない人へ
大森貝塚を入口に、日本の考古学が立ち上がる過程と、東京の貝塚の広がりをまとめて押さえられます。貝塚を見に行く前の予習としても使いやすく、巻末の一覧があるので、あとから参照できる安心感があります。
おすすめしたいのは、次のような人です。
- 大森貝塚の発見から顕彰までを、流れで整理したい人
- 東京の貝塚を一覧で押さえ、必要なときに引ける形で手元に置きたい人
- 貝塚発掘当時の古写真や文献資料を見ながら、考古学の立ち上がりを追体験したい人

